施術と脳の認識

 

 手技によって体を変化させるという場合、その変化のさせ方にもいろいろあります。多くの場合は「筋肉の緊張を弛める」ことで変化をさせるわけですが、まずはこれについて触れていきます。手技にはそれが「物理的な刺激」という観点と、「神経反応を誘発する刺激」という観点があります。例えばマッサージなどの「揉む」といった対象を大きく動かす刺激は、「物理的な動き」を通じて弛緩の反応が起こるわけです。もちろんそこで、体を動かされることに対しての「神経反応」が起こりはするのですが、この場合は「動き」自体が優先し、「神経反応」は二次的な要素となります。これと対局となるのが指圧のような「静的な刺激(持続圧=手技の静止状態を維持して体を反応させる)」であり、この場合は「神経反応」そのものが目的となります。これらを「動」と「静」とすれば、神経反応が追いつかないような大きな、または早い刺激を用いるのが「動き優先」、緩やかな動きによって神経反応を誘発することを目的とするのは「神経反応優先」ということになります。

 

 これらの手技=刺激をそれを受け取る脳の側から捉え直すと、それは「脳が認識しにくい刺激」と「脳が認識しやすい刺激」という区分になります。例えば「足首を回す」という施術は脳にとって正しく認識することが非常に難しい刺激です。「回す」という動きでは足首の存在する全ての軟部組織組織が同時反応をするわけで、そこで起こる全ての動きを脳が正しく認識することは不可能です。これが施術として成立するのは、その部位に体の意識が集中すること(神経反応や血液循環の活性化)、また反射的に起こるさまざまな動きによって状態が変化(悪い安定状態から異なる状態への変化)するためです。施術が体に大きな動きを強いるようなものである場合、あえて脳にとって複雑な刺激を与え、過程の段階で起こる種々の変化については脳に把握をさせず、終わった結果のみを脳に認識させることに大きな意味があります(過程を重視しない施術)。

 

 これに対して指圧のような持続圧の場合は、その刺激を静的なものとすることで、脳が反応しやすい状況を作り、それに応じた反応を得ることが目的となります。ただしこれも強圧であったり、特殊な操作を加えればそれが「全身反応」となり、この場合は脳にとって認識しにくい刺激となりますが、ここでは「例外」としておきます。脳にとって、刺激に反応する範囲が比較的狭く、かつ起こる反応が比較的単純で、脳がその変化を認識するだけの時間的な余裕が与えられている場合に、こうした過程までを踏まえた「脳が認識しやすい刺激(施術)」が成立するということです。施術ではこの使い分けが重要で、あえて脳に過程を認識させたくない場合は、意図的に脳が認識しにくい種類の刺激や速度、または動きの大きさなどを用います。認識させたい時には、相手の脳が処理できる反応の速度を見極め、脳にとって負担の少ない刺激を用い、その種類や刺激量・施術の速度などからうまく組み立てていくわけです(施術の過程を全て認識させる施術)。この二つの施術を使い分け(または組み合わせ)をすることで、一見単純な施術でも体にいろいろな反応を引き出すことが可能になります。