精神的な要因

 

 精神的な要因というのは曖昧な表現ですが、これは身体機能に起因するもの以外の不調であると考えて下さい。イメージしやすいのは精神的なストレスや過去のトラウマによる体調不良などでしょう。そうした問題については本来、手技療法の範疇外とすべき考え方もありますが、ここではそうした問題にも必ず身体機能が深く関わっているとし、体の機能改善からでも変えられるものが多分にあると考えます。これについては、私はよく「意識と体の過剰な結びつき」と話すのですが、仮に同じ恐怖経験をし、それを思い出した時にそれが体に強く影響する人もいれば、それほど影響しない人もいます。この違いは意識と体の結びつきが強い人ほど過剰に反応し、それが弱い人では反応が弱いことによります。

 

 意識と体は本来それぞれが独立して存在しているべきで、必要に応じて双方に密接な関わりが生まれるものだと思います。これは「意識(精神)が崩れた時に体が安定していれば意識が大きく崩れることを避けられる」という説明で少しはイメージができるでしょうか。逆に「体が崩れた時に意識(精神)が安定していれば体が大きく崩れることを避けられる」とも言えます。片方が崩れればもう片方も崩れてしまうのでは二つのものが共存している意味がありません。互いが必要に応じて独立していればこそ、互いで補い合うことが可能となります。この関係について、双方の結びつきが過剰に強くなると、大抵は意識(精神)が体に勝ってしまい、意識次第で体調が崩れてしまうケースが殆どです(意識>>>体)。体の側が独立して安定を保とうとする力が弱く、その結果として容易に体調不良に陥り、それがまた意識の側へと反映されるという悪循環です(精神的な問題の方が大きく見えるため「精神的な問題」と自覚または判断される)。

 

 こうした体では「立つ」ということにおいて、その安定度が著しく低下しているものです。人は体が安定せずグラグラするだけで無意識に「不安」に陥る生き物ですから、体の安定度の低下はそのまま多くの精神的な問題の潜在的要因であるといえます。また内臓機能全体の活動が低下しているのも共通で、交感神経の過剰な働きから副交感神経の働きが過剰なまでに抑制されているものです。内臓機能の低下(小腸の働きや呼吸器の働き)はそれがそのまま「生命機能の低下」に繋がるので、やはり無条件に「不安」の要因となります。これらは単純な例でしかありませんが、こうした機能的な問題が精神活動に大きな影響を及ぼしていることは確実であり、これらを改善することで脳の活動をより正常化させ、その結果として精神面の問題を改善していくことも可能となります。私の場合はよく「○○が悪い」「○○も悪い」「これで精神的に安定していたらそれこそおかしいですよ」と説明したりします。本人自身も「精神の問題」と思い込んでしまっていることが多いので、まずは体に眼を向けさせるだけでも大きな違いになるものです。