回復力の不足

 

 回復力の不足というのは、愁訴や疾病が本来なら自己治癒が難しくない程度の機能異常から起こっているにも関わらず、体力の低下、回復力の低下から「治らない」となっているようなケースです。具体例としては、高齢の患者さんで愁訴自体はそれほど大きな問題ではないものの、その体力の低下から「施術に反応するだけの力がない」といった場合です。こうした場合は「治すための施術」を行う前に「体力を増大させるための施術」を行う必要があります。ただこの場合、理屈としては「体力=回復力が増大すれば治ってしまう」ことになってしまうのですが、そこは重要ではありません。ここで重要とするのは「治す施術」よりも「体力を増大させる施術」の方が優先されるべき患者さんがいるということです。

 

 一般的には「治す施術」の方がその方法論としては単純です。これは対象とすべきことがハッキリしているためで、これに対して「体力を増大させる施術」というのは、その人によって必要なことが違いますし、また基本的に「全身同時反応」でなければならないので、通常の施術とは異なる難しさを持ちます。そうした状態にある体に対しては、まず「何を以て体力の回復を図るか」を決める必要があり、それは呼吸機能の回復であったり、血液循環の回復(毛細血管レベルの回復)であったりとさまざまです。そして、その必要な機能をどうすれば施術によって誘発し、それを自力で維持させるか。そこまでの内容が施術に求められることなります。もちろんこうした施術には、体力の大きな消耗を招くような「強い施術」「大技」などは使えませんし、出来る限り負担の少ない(刺激の少ない)方法を組み合わせながら、体をゆっくりと無理なく反応させていかなくてはなりません。

 

 指導の場でよく思うのは、治すことを焦るあまりに「体を変える」ということばかりを優先させすぎ、体に負担をかけてしまっている施術が多いことです。もちろん早く治るに越したことはないのですが、体は変化すればよいというものではありません。その変化を受け入れ、自身の体に定着させるための時間が必要です。よって体をある程度まで変化させ、一定の安定状態に達したら、次はその状態を安定させるための施術が重要な意味を持ちます。「体力を増大させるための施術」にはこうした意味もあるわけで、「無闇に体を変化させるべきではない」という時に、不要な反応を引き出すことなく、全身の諸機能を僅かに底上げし、安定して機能できるようにすることが本意となります。これを私はよく「悪い処を治す施術」ではなく「よい処(悪い処と比べて)をより整えるための施術」と説明しています(悪い処を治すばかりが施術ではない)。施術の反応を可能な限り最小に抑え、全身の諸機能を底上げすることで自身の回復力を高めさせる施術は、多くの重篤な愁訴・疾病を抱える人にとって「治すための施術」よりも大きな意味を持つ施術です。