施術による体の統合

 

 この資料で行ってきた施術の説明は「体が自然に治るための障害になっているものを取り除く」という考え方に沿っています。これは、障害さえ取り除けば体は自然に自らの機能を統合し、正しい機能に戻ることができる、ということが前提なのですが、実際には障害を取り除いても体自身が統合に至れない(統合する方向に進むことができない)ということが多々あります。

 

 仮に愁訴や疾病が一時的(短期的)なものであった場合は、体がそれ以前の「正常な状態」に戻ればいいので、自然治癒も比較的容易です。しかし愁訴や疾病が長期にわたり、体にとって以前の「正常な状態」より悪い状態の感覚に慣れきってしまっている(正常な状態の感覚が薄まっている)ような場合、または先天性の疾病など、正常な感覚そのものが欠如しているような場合では、体自身の力で全身の諸機能を統合し、正しく機能することは難しくなります(高熱による自然治癒が難しい状態)。

 

 例えば、施術を長年重ねてきたことで全体的にはすごく良くなっているのに、ちょっとしたことで体が崩れてしまう(愁訴が再発する)という患者さんに悩まされている人は多いと思います。そうした体は、本来「統合」するための必要条件がほぼ整っているにも関わらず、自身では統合ができない状態にあると考えるべきで、そこで「施術による統合」が必要となってきます。ただし先に説明した風邪による自然な統合と比べると、施術によって起こる統合というのはその対象が限定された断片的な統合としかなり得ません。

 

 その理由は、施術者に「体の全ての機能を把握して統合する」ことはできないからです。施術によって可能となる統合とは、施術者が対象とするある一面においての統合であり、それは「全身の筋肉の張力を均一にする」「全身の血液循環を均一にする」といった、対象を身体機能の「何か」に限定した断片的な統合です。熟達した施術者であれば、複数の要素を同時に統合することも可能ですが、それでも「身体機能の全て」という観点からすれば、断片的な統合であることには変わりはありません。しかし「断片的な統合」であっても、それは無秩序な状態にある体に一つの指標となる秩序ができるということです。一部機能でも統合することで、体はその断片的な統合をきっかけに、全身の諸機能の統合へと進みやすくなります。