腱というのはその扱いが厄介な組織です。これはどこかの武術の達人の言葉だったと思いますが、「皆は筋肉を鍛えているつもりで「肉」ばかりを鍛えている。それでは体は強くならない。「肉」ではなく「筋」を鍛えるんだ。」ということです。意味深い言葉ですが、これを実際の体に当てはめてみると、およそ意味に近いのは「肉=筋肉組織」、「筋=腱」となると思います。実際に腱を鍛えるというのは難しいものです。決まった方法論で鍛えられるようなものではありません。実際に筋力トレーニングなどで体を鍛えたとしても、太くなるのは筋肉の本体ばかりで、手首足首といった腱組織はほとんど肥大することはありません。実際に武術などで稀に手首や足首などが太く、腱が正しく訓練されている人がいますが、そうした人の身体感覚や、そこから発揮される運動能力は少し桁が違います。

 

 誰でも腱に対しては固いという印象を持っていると思います。この腱を先の「繊維単位で感じる」という感覚で触れてみると分かりますが、筋肉の部分では動きに対して繊維単位の柔軟な動きを感じ取ることができますが、これが腱となると、その動きは殆ど感じられないものだと思います。これを整理すると、殆どのケースにおいて腱の動きは筋肉にとっての「抵抗」となります。簡単にいえば、腱は繊維単位での独立した動きを確保しにくく、その結果として先の「パスタ」の例のように、本来の柔軟な動きを失っているのが普通です。こうした状態では体を鍛えるといった動きの際、本来は腱組織が正常に機能していれば筋肉、腱の双方が鍛えられることになるのですが、腱の動きが不十分であれば、それがブレーキとなって筋肉には過剰な負荷がかかることになります。その結果として筋肉自体は容易に肥大するものの、腱自体には大きな変化が起こりません。

 

 実際の施術で腱に対して「繊維間の滑り」を回復させていくと、特に手首などではその動きは驚くほど滑らかになります。そして同じ運動を行ったとしても、そこで筋肉にかかる負荷は大きく軽減されます(筋肉自体の動きが小さくなる)。腱というと殆ど全ての筋肉の両端には腱がついているので全身の筋肉の殆どが対象となってしまうのですが、ここでは特に手部・足部といった多くの腱が収束している部位を主体に考えて下さい。そして手足の動きにはおよそ腱によるブレーキが生じており、その結果として私たちは本来なら不要な強い力を用いなければ、手足を自由に動かすことができないと考えて下さい。そうなると、腱組織の動きを改善することには筋肉への施術以上に大きな意味があることになります。

 

 しかし腱というのはよほど繊細な組織なのか、腱単体への施術ではその持続が弱く、本来の機能を取り戻すには至りません。あくまで全身のバランスが一定の条件を満たした限りにおいて機能する組織です。それでも腱への機能回復が体の動きを大きく変えることは確かですし、普段は見過ごしがちな腱の機能を意識することには大きな意味があると考えます。