術式五の概要

 

 これまでの術式は「体を整える」といっても、施術によって体がある程度まで整いやすい状態とし、最終的な整える作業自体は体自身に任せるというものでした。これに対して術式の五では、関節を通じてより精緻に体を整えていきます。どんな構造体にも、その構造体が理想的に動く形やバランスといったものがありますが、これは関節も同じで「正しい位置」に合わせることで理想に近い機能を得ることができます。ただしこの「正しい位置」には二つの意味があり、それをここでは「絶対位置」と「相対位置」としておきます。「絶対位置」は、関節がその位置に合いさえすれば理想の機能が得られる最上の関節位置で、「相対位置」はその体なりに関節がうまく動けるようになるその時の体に合わせた正しい位置です。前者は極めて特殊な施術になるので例外的なものとし、ここで扱うのは比較的実践の容易な後者=「相対位置」となります。

 

 これは術式二の「全解除による正しい位置」で説明しましたが、術式二の段階で各関節の「正しい位置」を感覚的に掴んでいれば、それを意図的に再現する作業です。とはいえ、正しい位置のイメージが明確でも、いきなりその位置に合わせたところでその通りになりはしません。ただ「正しい位置」の感覚は「関節の正しい軸感」でもあるので、関節の軸の歪みについてはよく分かるようになっている筈です。術式二ではある一帯の骨の動きを均一化することで正しい位置としましたが、術式五ではその時の「軸感」を意図的に再現しようとする施術となります。術式の「結果」を直接得ようと行う施術なので、関節を効率よく整えるための施術であると考えて下さい。

 

 軸感を整えるための指標となるのは「血液循環」です。体の中で血液などの体液循環が最も滞りやすい部分は「関節」です。関節はその周囲の筋肉の緊張バランスが崩れると、そこに生じる強い緊張や関節の捻れが循環にとっての強い抵抗となります。しかしどんな関節でもその位置の合わせ方によって「最も循環が促進する位置」があります。これは周囲の筋肉の緊張バランスが整っている状態でもあり、これが正しい関節位置=「相対位置」となります。これを簡単な関節の合わせ方の例ですが、関節の動きには三軸の「屈曲・伸展」「側屈」「回旋」の動きがありますが、それぞれの動きには必ず中間の一点があります。「屈曲・伸展」「右側屈・左側屈」「右回旋・左回旋」の全ての中間となる位置、これが相対位置です。関節がこの位置に入ると、その瞬間にそれまで関節の生じていた種々のベクトルが瞬時に消失するため、持っている手からその「重さ」が消えます。

 

 ただ、これだけでは「循環の促進する位置」というだけで、術式二で培った「正しい位置」とは程遠いものです。しかし循環が促進するということは、促進した先で組織の活性化が起こるわけで、これは「均等な活性化」となれば、その位置も徐々に「より正しい位置」へと変化しやすくなります。この時に重要なのは「関節の軸感」を常に感じていることで、ここでは関節の正否は全て軸感の正否に置き換えられます。軸感を捕まえた状態で、かつ循環の促進も維持しながら、徐々にそれを正しい軸感の位置まで整えていくのです。その過程で軸感が整う度に循環はより促進するので、組織の均等な活性化から徐々に関節の安定度も増していきます。最終的には関節に「適度な締まり」が生じ、どんな動きに対してもそこで関節の遊びが増減することなく安定した状態を維持することが理想です(毎回の実現は難しいのであくまで目標)。こうして一つの関節を「安定」させることができると、そのままその関節から次の関節へと操作を続け、連鎖的に全身の関節を安定させることも可能となります。