引き剥がす手技 2

 

 私の内臓を扱う施術を知っている人は、「力技」と思っている人も多いので、先の「引き剥がす手技 1」に違和を感じるかもしれません。実際には「神経の反応を狙って行う施術」と「狙わない施術」があり、後者の場合は施術が「力技」に見えるのだと思います。癒着などの引き連れがある部位というのは、正常に機能せず、また感覚も鈍くなっている部位です。あまりに引き連れの範囲が広く、それらを地道に機能回復していたら切りがないという場合、感覚が低下していることを利用して、逆に「脳に気付かれないよう剥がす」ということも行います。どう加減をしても「抵抗が強い腹部」というものはあります。そういう時は、逆に脳が反応しにくい速度やリズムで施術を行い、抵抗しにくい種類の刺激とすることで引き連れを消し去っていきます(剥がした後から神経を回復させればよい)。つまりは内臓に「合わせる施術」と「合わせない施術」の二つがあるということです。

 

 内臓への施術は、結果的に受け手の体力を大幅に消耗させてしまうものです。よって引き連れが多ければ多いほど、その回復に体力を消耗するわけで、体力のない人にこんなことを行えば、途中で体力が尽きてしまい、逆に内臓全体の働きを停滞させてしまいます。また腹部の緊張が過剰で、必要な手順を終えても手指を入れる隙間もないような状態では「神経を反応させる施術」はより警戒を強めさせるだけです。そうした場合は、逆に脳が認識できない種類の強刺激で一気に引き連れの一部を消し去ります。この時、脳は「痛み」と「認識できない刺激」によって一時的に混乱状態に陥ります。これを繰り返されると刺激に対して何の反応もできないまま、次第に思考力を失い、急激に副交感神経に傾きます。どちらにせよ、この種の刺激には「相手に不要な過程の反応を引き起こさせない」という意味があります。ある程度まで引き連れを消し去った後で、その状態を脳に認識させる施術に切り替えると、不要に体力を消耗させることなく腹部の機能を改善することができます(即効性が高いので勉強会などではデモンストレーション的に用いることが多い)。

 

 とはいえ、これはまず「脳が認識しやすい刺激」を熟知していることが必須で、それを知っているからこそ、逆の認識しにくい刺激を扱うことができるということです。この施術には主に「速さ」が重要で、かつ「過程」を感じさせてはいけないことが必須です。刺激を加えるポイントを事前に決めておき、そこに入るまでの過程を一切感じさせずに目的のポイントのみに刺激を加えます(脳にとっては突然ポイントを刺激されたようにしか感じない)。過程の動きを感知させてしまえば、そこに「予測」が成立してしまうため、脳がその刺激を認識できてしまうのです。内臓の癒着を引き剥がす施術は、この「脳に正確に認識させる刺激」と「脳に認識させない刺激」を組み合わせて行うことで初めて有効な施術となり得ます(両者の中間となるような曖昧な刺激は意味がないので不要)。実際にはこの二つを必要に応じて瞬時に切り替え、臨機応変に使っていくことが理想ですが、まずはそれぞれの刺激の加え方に慣れて下さい。