三次元の動き

 

 内臓への施術は、その裏側までを対象とするので、体表から行う施術では限界があります。これを大和の言葉に置き換えるのなら、直接法では狙える範囲に限界があるので、補助的に間接法を用いることで「内臓の全ての組織」を施術の対象とします。術式三で扱うのは直接法に限定しますが、直接法もその熟練度によって、通常では決して触れることの出来ないさまざまな組織に直接刺激を加えることができるので、出来る限りの対象を直接法で改善できるようになることが術式三の目的でもあります。ただし、これは技術的な問題よりも、内臓を扱うための身体感覚が整っているかの方が重要となります。平面的に扱うことのできる運動器と違い、内臓には「奥行き」の感覚が必要になるからです。

 

 運動器への施術が二次元(平面)の感覚なら、内臓への施術は三次元(立体)の感覚となります。これは内臓の「奥行き」を感覚的に理解し、その複雑な動きに対応できるか否かということです。イメージとしては「地上の戦車戦」と「飛行機の空中戦」を思い浮かべて貰えば、平面と立体の違いがどれだけ感覚に根本的な違いを強いるかが分かると思います。そもそも私たちの生活行動自体が「平面」の感覚なので、立体の感覚を掴むというのはそれだけで相当の難しさを伴います。単純には「体表のどこへどういう方向の刺激を加えるか」という平面の施術の感覚に「深さ」が加わるだけなのですが、この深さという考え方自体、平面の感覚を維持したまま立体に対応しようとする感覚でしかありません。前後・左右・上下の全てを均等に考えてこその立体の感覚となります。これはもちろん手指がそう動けば良いというわけではなく、全身は等しく立体の反応をしなくてはなりません(この三次元の感覚が術式四へと繋がっていきます)。

 

 まずは内臓(特に大腸・小腸)の動きについていくことです。ある隙間から大腸・小腸の動きを深部へと追っていくと、通常では考えられないほどの複雑な軌道となり、その動きに体が付いていけないものです。これに慣れることで、どんな軌道・動きにも付いていけるようになることが立体としての感覚であり、これは「自身の体の水平を保たないこと」によって可能となります。私たちの体は水平(垂直)の感覚で安定することに慣れきってしまっているため、それを崩される動きについては無意識の抵抗が起こりがちです。これを消し去ることができなければ、内臓の奥行きを伴った複雑な動きに対応することができないのです。そのためにはどんな体勢であっても、地面に足を付いている限り体が機能する「身体感覚の充実」が不可欠であり、そのため準備は術式一と二の「体の操法」で終えているものと考えて下さい。