施術の静と動

 

 内臓への施術は「動」と「静」の切り替えが重要な意味を持ちます。私たちの施術が「脳の反応」を期待して行われるものである以上、その施術が脳にとって「分かりやすい刺激であること」は、体の反応を大幅に促進させる意味を持ちます。これは運動器でも同じですが、内臓への施術でより顕著になります。「分かりやすい施術」の中身は、その刺激が真っすぐか、均一な曲線か、押圧の速度が一定であるか、力の量(刺激)が一定であるかなど、いろいろありますが、ここでは「静と動の切り替え」を重視します。術式三は内臓の隙間を扱う施術と説明しましたが、実際には「内臓に関わるあらゆる引っ掛かり」を対象とする施術なので、この「引っ掛かり」を手指で正しく検出することが重要となります。

 

 ほとんどの人では、内臓を手指で触れて任意の方向に少し動かしてみると、すぐに「抵抗」が見つかります。この抵抗の中身はほとんどが膜組織の引き連れであり、その中に「臓器間の動きの低下」も混じっています。この引き連れについて、今度は繊細にゆっくりと動かしてみると、特性の繊維が「ピッ」と突っ張る瞬間が分かります。引きつれとしてはほんの僅かなものですが、内臓の引き連れというのはこうした小さな引き連れの集合体なので、こうした「些細な引き連れ」に対して手指を敏感に反応させる必要があります。引っ掛かりを感じた瞬間に、その張力を維持したまま手指を含めた全身の動きを完全に静止するのです(手指だけを止める曖昧な静止では内臓に静止と感知されません)。この静止が適正であれば、手指を静止して待っているだけで、その引っ掛かりが解けていきます。この感覚が術式三の基本です。

 

 術式三は「臓器間の動き(関節)の回復」を主目的とした施術ですが、初めからそこに拘ってしまうと「些細な引っ掛かり」の重要性を見落としてしまいます。まずはゆっくり丁寧な動きで内臓の引っ掛かりを感じ、それを静と動の単純な動きだけで出来る限り消し去っていきます。動については動きの速度も重要で、これはただゆっくりであればよいというわけではなく、内臓の組織の「粘度」に合わせた速度で動くことに意味があります。表面からの手指の動きの速度が「内部にある臓器」にとって適正であれば、その一帯は僅かな力で驚くほど動きますし、適正でなければほとんど影響しない力になってしまいます。この「静と動の切り替え」は運動器への施術にも需要な意味を持ちますが、これを扱うのは「術式七」となります。