臓器を扱う心得

 

 施術で内臓を扱うことの難しさは、その動きが私たちの触り慣れた「横紋筋」ではなく「平滑筋」によるものだということです。横紋筋は「体を動かす」ための筋肉なので強い力と構造を持っていますが、平滑筋は「内臓を動かす」ための筋肉なので、力も弱く構造的にも強くありません。そのため、不用意に触れるようとすれば、その瞬間に「防御」のために固まってしまいます。ゆっくり丁寧に触れたとしても、その手にある緊張が内臓にとって「強い刺激」と判断されてしまえば同じことです。「内臓を固めずに触れる」というだけでも、相当の技術を要します。仮にそうして触れることができたとしても、そこで「施術をしよう」と手指が緊張すれば、それだけで固まってしまうものです。術式三の段階では「内臓を固めずに触れることのできる手(体)」はまだ出来ていないことが前提なので、その中で可能な施術を行うしかありません。

 

 まず最初に覚えて欲しいのは「臓器を捕まえる」という感覚です。施術では施術者が意図した対象のみを手指が捕まえることで、その後の一切の刺激が対象の組織にしか伝わらないようにすることは大和整體の基本です(自身の意図した以外の組織に不要な影響を及ばせない)。これは内臓への施術でより重要な意味を持ちます。特定の臓器のみを正確に捕まえることで、その臓器と周囲の臓器の境界を浮き立たせ、隙間の問題を焦点化するからこそ、剥がしやすくなるのです。ただ力を使って剥がそうとすれば、繊細な臓器の組織に不要な刺激を与えることになり、炎症を起こしかねません(臓器の炎症は簡単に起こる)。まず臓器の表面の膜を捉え、そこに適正な圧力を加えることで臓器全体の張力を均一に揃えます。その上で臓器の膜の張力が全体で均一な状態を維持しつつ、臓器を任意の方向へ動かします。重要なのは確実に捕まえるまで「待つ」ことです(膜の感覚が浮かび上がってくるのを待つ)。

 

 次に、扱いの難しい内臓に対して、体壁系の感覚である施術者が注意をすべきことは「力で行わない」ということです。内臓への施術は腹部の深部へと手指を深く入れていくことが多くなりますが、その際には決して力で無理に入ろうとせず、あくまで「入れる分だけ入る」ということが基本になります。敏感(正常)な臓器なら、手指が近寄っただけでその刺激を嫌い「逃げる動き」を行うものです。理屈でいえば臓器というのは私たちの手指から逃げようとするものなので、その動きに合わせてお腹の中へ入ることができる分だけ入り、動きが止まったら、また動くのを待ちます(臓器の反応速度が鈍くなっている人が多いため動きには時間を要する)。これと同時に「入りやすい隙間」を選んでいくことで、臓器に負担をかけることなく深部を扱うことができます。まずはこうした「内臓の動きに合わせた手技を行う」ことに慣れて下さい。