実質臓器の扱い 1

 

 ここまでの説明は主に消化器の中空臓器が対象でした。中空臓器は基本的に筋肉によって成り立っているため、少々の無理な施術でも損傷の可能性が少ない臓器です。しかし実質臓器はその造りが繊細なので、扱いには注意が必要となります。内臓への施術は「中空臓器→実質臓器」を基本とします。これは中空臓器が動きの自由度が高いうえに決まった形を持たない(周囲からのさまざまな力が加わってもその形を変えることで対応できる)のに対して、実質臓器はそうした柔軟性を持たないことが理由となります。内臓に周囲からさまざまな歪力が干渉してきた場合、実質臓器はその位置関係が中空臓器に比べて明確に定まっているため、結果的にその力を多く蓄積してしまうのは動きの自由度が大きく、かつ決まった形を持たない中空臓器となります。よって中空臓器への施術を行った後に、実質臓器への施術を行う方が効率が良くなります(内臓全体のストレスを軽減させてから実質臓器を扱う)。

 

 また、別の視点で見れば、内臓のスペースの大部分を占めるのが「消化器」です。そして特に下腹部の大腸・小腸は「肚」として身体機能を中核をなす臓器です。それと比較すれば以外の臓器というのは補助的な働きであり、まずは大腸・小腸の機能を改善することで、他の臓器も活性化しやすくなります。呼吸器の肺についても、まず腹部が機能することで「自然な腹式呼吸(=全身の代謝の向上)」が回復しなければ、正常な活性化は望めませんし、小腸の活性化も、副交感神経の活性化へ至る必須の条件です。身体は左右半身に分けて考えた場合、右半身を「体壁系優位の感覚」、左半身を「内臓系優位」の感覚と考えるので、ここで胃を優先することにも大きな意味があります(胃は左半身の機能の中核を担う臓器であり、胃の活性化を通じて左半身の機能を高めることが結果的に内臓全体の活性化に繋がる)。

 

 中空臓器が活性化しており、かつそれらの位置が比較的正しければ(正しい位置で機能できているなら)、それだけで実質臓器が回復しやすい状態にあるといえます。実質臓器の扱いについては体の操法で説明する「捕まえる感覚」が前提となりますが、臓器を膜の張力を利用して、外部からその臓器内にのみ圧力を加え、内部の圧力が均一に揃える「飽和」が主体となります。飽和によって活性化した実質臓器では、臓器自身が自らの位置で安定を保つようになるので、それだけで引き連れの要素は格段に減っていきます。実質臓器は中空臓器のように歪力を蓄積していないのでもともと引き連れの度合いは少ないものです(もし実質臓器に強い引き連れを感じるとしてもそれは中空臓器の問題が影響した結果)。実質臓器に直接「引き剥がす」といった力を加えることもありますが、これは「飽和」による機能回復が前提です。本来は「引っ張る」などの力に弱い実質臓器でも、内部の機能が安定した状態であれば無理なく強い力を加えることができます(ただし臓器を包む膜の張力が一定であること)。