優先すべき臓器

 

 内臓の引き連れの改善を行う順序は、まずそれが「異種組織間」のものですか、「同種組織間」のものであるかで区分します。簡単には、内臓の引き連れの相手が「体壁系の組織」であるか、同じ「内臓系の組織」であるかです。内臓系同士の引き連れ(癒着や接合)というのは、実はあまり問題ではありません。困るのは体壁系の組織との間で起こる引き連れです。体壁系の組織は力の強い横紋筋の働きであり、内臓系の組織は力の弱い平滑筋の働きです。この両者は互いが干渉することなく分離していることで、それぞれの働きを行うことができます。しかし体壁系の組織と内臓系の組織の間の分離が損なわれると、力の弱い内臓系の組織は隣接する体壁系の強い緊張下に晒されることになり、ほとんど機能することが出来なくなります(その内臓の機能低下がまた運動器に反映される)。これは内臓系の機能にとって最も深刻な問題です。これに比べれば内臓間の引き連れは大きな問題ではありません。

 

 こうした理由から、内臓の引き連れの解消はまず「体壁系」からの剥離が優先となります。内臓系の中で体壁系組織と癒着・接合しやすい部位は、骨盤部と胸郭です。骨盤部の内部にあるのは主に「大腸・小腸」ですが、実際に骨盤部に接しているのは「大腸」なので、これを優先的な施術の対象とします。ただ、その背景には体の機能上重要な「小腸」が、体壁系と接することで機能が低下しやすい「大腸」に間接的な影響を受けることで小腸の機能も低下しやすいので、大腸の機能改善はそれがそのまま小腸の機能改善へと繋がっていくものであるべきだと考えて下さい。胸郭については、肺・心臓は胸郭に守られ、直接法による引き連れの解消が難しいことからここでは重視しません。残る肝臓と胃については、肝臓は実質臓器で扱いにくいこともありますが、自身の明確な形を持つ臓器なので、癒着や接合が起こってもその位置関係に大きな狂いが生じないのでここでは重視しません。しかし胃については、癒着・接合の仕方によってはその位置関係に大きな狂いが生じるため、術式三の主要な対象となります。

 

 内臓は本来、腹腔・胸腔の中である程度の自由な動きを許されており、それ故に体壁系とは異なる独自の代謝を行うことができます。しかし、その一部(ここでは大腸や胃)が体壁系と癒着・接合することでその動きを制限されてしまうと、結果的に内臓全体の動きに著しい制限がかかることになります(特に左半身側で顕著)。引き連れ以前に、まず内臓全体を活性化させるためには、この「内臓系への体壁系の干渉」を排除することが優先であり、内臓間に起こる引き連れはその後の話になります。よく施術で重視される「腸間膜」は、癒着や接合という面で考えれば間接的にしか作用しないので、優先的な施術対象とは考えません(施術による効果は大きいものの内臓全体の活性化という点では重要度が低い)。