3. 癒着について

 

 内臓の引き連れを扱う上で、その引き連れの中身が何であるかをイメージしておくことは大切です。ここでは内臓の引き連れを三段階に分けて考えていきますが、最も重度なのは誰もがイメージしやすい真性の「癒着」です。よくテレビなどで手術の最中に内臓の癒着をレーザーで切る映像がありますが、そうした私たちが施術でどうこうできない「完全に癒着している状態」をここでは「真性の癒着」とします。逆に軽いものは、手術などで手で簡単に引き剥がせるものと考えて下さい(厳密には癒着とは呼べない擬似的な癒着)。さらにこの中間に「軽度の癒着」を置き、内臓の引き連れをこの「重・中・軽」の三段階で考えていきます。そして、この中で私たちが扱うことのできるのは「中・軽」の二段階となります。

 

 次に癒着の過程について考えていきます。内臓の癒着は開腹手術などを行うと一気に進行しますが、そうしたものを除いて自然に起こる癒着については、まず緊張による内臓の動きの低下と、体液循環(漿液の循環)の低下が原因となります。まず各臓器間は体液循環によって滑り合うことで互いの動きが干渉しないようになっています(互いに独立した動きを有する)。これが緊張の持続によって動きが乏しくなるとともに、緊張による体液循環の低下が起これば、互いの組織が密着した状態が持続することになります。この状態が一定期間維持されてしまうと、自力(通常の日常刺激程度)ではその部位を動かせない状態となります(これはまだ「癒着の前段階」なのでここでは便宜上「組織間の接合」としておきます)。これがさらに長期化すると、密着している臓器そのものの機能が低下することでその一帯全ての組織に機能低下が起こり、安定状態に入ってしまうことで癒着にまで発展します(軽度の癒着)。これに対して「真性の癒着」は、基本的に内臓組織に炎症が起こるなどの「非日常的な事象」が生じることで起こる「組織の変成」と考えます(あくまで便宜上の区分です)。

 

 実際に癒着していると思われる組織に対して、それを引き剥がそうとしても簡単には動いてくれません。しかしこれは、たいていが「必要となる手順」を踏まずに施術を行おうとするためにそう感じるものです。内臓は外部からの刺激に対しては必ず「緊張による防御」を行うので、単純に「交感神経の働き」が強い状態では外部から内臓を動かすことは叶いません。まず交感神経の働きを抑制し、相対的に起こる副交感神経の活性化から内臓に一定以上の血液循環が起こることが第一条件です。次に臓器のうち、感覚が鈍くなっていることで抵抗反応が起こりにくい部位を選び、その部位にゆっくりと施術を行うことで本人の意識をその臓器に集中させます(血液の流れをその臓器へと集中させる=第二の条件)。次に臓器全体への刺激となるような施術を意識し、刺激を続けることでその臓器の感覚を正常化させます(神経の回復=第三の条件)。これだけの準備を終えてから、臓器間の隙間を開くための刺激をゆっくり加えていくことで、臓器間に正常な隙間を作り、そこに体液循環を促進させていきます。「中・軽」の問題であればこれで解消することができます。

 

 真性の癒着については、どんな癒着でも、日常生活動作による刺激がそこに適正に加わり続ければ、徐々に動かざるを得ないものです。そうならない理由は、その部位に「動きによる刺激」が加わらないよう、周囲一帯に安定した緊張(引き連れも同義)が存在するためです。つまり周囲の問題を消し去り、真性の癒着を孤立させることができれば、日常動作によって徐々に癒着の状態は崩れやすくなっていきます。これだけで癒着が解消されるとは限りませんが、重要なのは癒着そのものではなく、癒着に伴う関連組織の機能制限です。癒着が一部残った状態であっても、周囲一帯の組織が正常に機能すれば癒着は問題とはなりません。重要なのはその一帯が正常に代謝をすることで、正常な代謝を長期に渡って維持できれば、少々の癒着は機能の障害とはなり得ないものです。