2. 基本となる隙間

 

 内臓は臓器がいろいろな位置にあり、その隙間もさまざまですが、その中で動きの回復を優先すべき隙間があります。筆頭となるのは「上腹部」と「下腹部」の境界で、「胃・十二指腸」と「大腸の横行結腸」の隙間です。この隙間の動きは体幹の屈曲・伸展の動きに重要な意味を持ちます。次いで重要なのは「骨盤」と「大腸の上行結腸・下行結腸」との隙間で、この隙間の回復には下肢(運動器)と内臓の動きを分離する意味があります。その次は大腸と小腸の境界となります。これらは全て「大腸の動き」に関わる場所で、これらの施術によって大腸に生じている動きの制限を解消することに大きな意味があります。それは結果として「小腸の正常な動き」に繋がるためです。

 

 内臓の各臓器を活性化させると言っても、全ての臓器をいちいち扱っていたのでは大変なので、効率のよい順序を考えます。基本とすべき順序はまず「下腹部の機能を向上させる」ことで、大腸と小腸に関する機能の向上は、まず自然な複式呼吸を促すことによって全身の代謝を高め、かつ副交感神経の働きを活性化させます。さらには相対的な交感神経の抑制によって運動器に生じている緊張を減弱させ、下肢や腰部に関しては直接的な運動機能の回復に繋がります。下腹部は「体の中心」なので、その機能を活性化させることで内臓に限らず、全身を扱いやすくなります。しかし、同時に体に不調を抱えている人では、たいていがその動きも相応に悪くなっているので、簡単には改善の難しい場所でもあります。ただ、大腸・小腸の双方が「中空臓器」であり、施術による少々の負担にも耐えられる単純構造となっているので、練習対象としてもうってつけの臓器です。

 

 他の臓器については、同側半身全体への影響力が極めて強い臓器として「左半身で重要な胃」と「右半身で重要な肝臓」を重視します。この二つの臓器に機能異常が生じると、同側半身に極端な機能低下を引き起こすため、片側半身に偏った機能低下については大きな効果を得られる臓器です。ただし、胃については中空臓器であるため、隙間の回復はそれほど難しくありませんが、肝臓(実質臓器)については術式三の段階ではできることも限られます。とはいえ、内臓についても左右で優先的に扱うべきは「左側」となるので、右半身に極端な機能低下が生じているような場合でも左半身の「潜在的な機能低下」を疑い、左半身の機能向上に右半身を合わせていきます(特に肝臓に拘る必要はない)。この左側重視の考え方は、先の大腸・小腸についても同じなので、左側(下行結腸側)の機能を優先的に回復させていきます。

 

 術式三は運動器の問題を内臓から改善する(運動器と内臓の関連を見極める)ための施術ですが、最初は「内臓の扱いに慣れる」ために、内臓の引き連れそのものを施術の対象としていきます。これを行っていくと、患者さんの方から「(運動器の)○○が楽になった」と言ってくれるので、まずはそうした部分から内臓と運動器の関係を経験的に深めていきます(ここでその回答を説明しても実感の伴わない知識に意味はありません)。まずは内臓(ここでは腹部臓器)の引き連れの全てを解消できるようになること。その結果として運動器全体が本来の機能を回復すること。これを経験し、その意味と効果を実感することです。