上腕骨と手部 2

 

 上腕骨を固定し、肘関節の動きに意識を集中しやすくすることで手部から前腕はその動きの精度が増し、感覚も増すことになります。ただしこの時の上腕骨の感覚は左右を均等にしなければ意味がないので、左右それぞれの上腕骨を固定した段階で、そこに力の入り方の違いがあればそれを均等に修正する必要があります。これは、簡単には体の中心を左右どちらかにズラせばよいだけで、仮に左の力が弱いなら、体の重心を僅かに左に寄せることで左半身側の圧力が増し、より力が入るようになります(相対的に右の力が弱まる)。これで左右の上腕骨の感覚を均等にすることで、初めて左右の手を同じように動かせるようになります。

 

 しかし体部と連携することでその動きが著しく安定した状態になっている上腕部に対して、手部(前腕含む)は自由度が高くなっている反面、そのままでは全身と連携しているという感覚が薄まってしまいます。これを埋めるために行う修正が「ボールを持つ」という感覚の練習です。まず片手で楽に掴めるくらいの大きめのボールを五本の指を開いた状態で掴んでみると、指先から前腕までが強く連携した状態になるのを感じる筈です。そして、この時の手関節の可動域を確認してみるとその動きが大きく制限されていることが分かります。指先から前腕までがしっかりと連携した状態で動かせる範囲というのは僅かであり(訓練で広げることは出来ます)、その範囲内が手関節を動かしてよい範囲の限界ということです。あとはボールを持っていない状態でも「ボールを持っているつもり」で同じ指先から前腕までが連携した感覚を作ることが出来れば、その感覚のまま施術を行えばいいわけです。

 

 肘関節のように一つの関節に意識を集中するのであれば、そこを正しく連携させることは難しくありません。しかし前腕を含む手部全体を一度に連携させるとなれば、同時に把握しなければいけない関節の数は飛躍的に増えるわけで、その全てを正しく制御するというのは現実的ではありません。その代用となるのが「ボールを持つ」という感覚で、五本の指に均等に、かつ自然な動きの範囲で命令を下すことによって、前腕から手部の全ての関節が自然に連携することになります。ただこれは、手指を動かす際に「指先まで意識が集中していること」を前提としているので、施術の際も全ての指の末端まで意識を張り巡らせていくことが前提となります。指一本でも抜ければ手部から前腕の連携は成立しなくなります(全ての指の遠位指節間関節に意識を集中させる)。

 

 先の上腕骨の固定による体部との連携、加えて「ボールを持つ手」の感覚による手部から前腕の連携、この二つを同時に行うことで、術式一では器用に動かすことが出来なかった手部を、全身を連携させたまま大きく動かすことが可能となります。ただ最初はその状態を静止・維持するだけで手一杯だと思うので、これを自在に動かせるようになるまで訓練しなくてはいけません。まずは上腕骨は一切動かさない状態で、手部から前腕を連携させたまま動かす訓練を行い、それが出来るようになったら上腕骨の僅かな動きを加えていきます。本来、上腕骨を動かしてしまうとその動きに応じて肘関節の感覚が変化してしまうのですが、慣れてくると肘関節の感覚を変化させないまま動かすことが出来るようになります(別の言い方をすれば肘関節の感覚が変わらない範囲でしか動かしてはいけない)。手部から前腕については「ボール」のイメージに慣れれば無意識にその状態が維持出来るようになるので、実際に意識を集中すべきは肘関節の圧力の安定となります。