上腕骨と手部 1

 

 術式一の体の操法は全身の筋肉の緊張度を均一にすることにを重視しました。しかし術式二では手指の細かな動きが重要になるため、術式一の体の操法に加えて腕部に独立した柔軟性を持たせる必要があります。これは術式一の体の操法に往々に慣れていることを前提としますが、まずは術式一で行う肩を締めるための動作(肘を中心に前腕を回転・回旋させて締める)を行い、その肩関節の安定を維持したまま上腕骨そのものを固定します。あとは上腕骨を固定させたまま前腕を動かし、目的の手技を行うだけです(手指や前腕の動きに対して上腕は一切ブレることなく安定している)。この時点で意識が上腕骨に集中することで、前腕から手部の負担や緊張が大きく軽減されるため、普段よりも前腕から手部をずっと軽く、かつ正確に動かせるようになる筈です。

 

 この操法が目的としているのは「腕を正確に動かす」ということです。これは実際にやってみれば分かることですが、私たちが腕を動かす時、そこで働く関節は非常に膨大な数になります(手根骨や指節間関節まで含む)。この膨大な数の関節を同時に動かす時、私たちの脳はその全てを正しく把握することが出来ないため、どうしても正確さを欠いてしまうことになります。ただ、その全ての動きを把握することは出来なくても、その中である関節の感覚を安定させ、その関節に伝わる動きを以て全体の動きをある程度把握し、精度を高めることは可能です。そしてこれに適するのが「肘関節の関節面」です。手部から前腕を通じて伝わるあらゆる動きは、上腕骨を固定しておくことでその全てが肘の関節面に反映されることになります。この情報によって脳は手部から前腕の動きをある程度客観的に評価することが出来るようになるので、実際の手部や前腕の動きの情報と、肘関節の動きの情報を照らし合わせることで上肢全体の動きの精度(と感覚)を意図的に高めることが出来るようになります。

 

 加えて、上腕骨というのは大和整體の体の操法では「体部側」に含まれるので、もともと上腕骨の動きというのは体部側の動きと一致しているべきものです(全身が連携している限り)。つまり施術で全身が大きく動くのでない限り、上腕骨だけが大きく動くということもあり得ないので、もともと上腕骨の動きは手部や前腕と比較するとその動きは僅かになります。そもそも体の連携とは「全身の関節にその負担を均等に分散させる」というものなので、肩関節と肘関節しか持たない上腕骨に対して、多くの関節を有する手部から前腕では連携したままでも可能な動きが大きくなるのです。最初はあえて上腕骨を固定することで手部から前腕の動きが把握する感覚を身につけ、ぞれに慣れたら必要最小限の範囲で上腕骨を動かしながら同様に感覚で手部や前腕を使えるようになればいいわけです。

 

 これは下肢に置き換えれば分かりやすいと思うのですが、下肢であれば足部から下腿は「地面に合わせる」ために非常に柔軟な動きが要求されます。そして足部から下腿が地面の凸凹などに正しく対応出来ていれば膝関節(この場合は脛骨側の関節面)が安定した状態となり、結果として膝関節より上位に「バランスをとるための緊張」が不要になります。膝関節の安定がそのまま全身の安定に繋がるように、手部で行われる一切の仕事が肘関節より体部側に影響しないことがやはり体を安定させて使う際の必須事項となるのです。この場合の肘関節の安定とは、関節に生じる圧力を常に一定の状態に保つことでその感覚を一定に維持することです。ここでは肘関節の圧力を均一に保つことが出来れば手部から前腕はより正確に動き、より敏感に感じることが出来るのだと考えておいて下さい。