手部の機能を使う

 

 術式の一の体の操法は「全身を均等に使う」ということに特化した内容でした。しかしこれだけでは施術における「細かい作業」には対応しにくくなります。それを補うのが術式の二の体の操法で、基本的な体の使い方はそのままで、上肢の肘から先の末端の機能を最大限活かすことを目的とします。これは手指をあらゆる「工具」のように、その目的に形状も固さも自在に変えられるようにし、体のどんな部位にも必要な力を加えることができるようにする訓練です。ただしそのためには前腕を含む「手部」が他の「体部」とは仕組みが違うことを実感として理解する必要があります。

 

 まず私たちの体を「二足歩行」ではなく「四足歩行」の感覚に置き換えて説明していきますが、この場合、手というのは地面に接地する「前足」となります。そして前腕を含む「手部」は多くの骨で構成されることによって、地面との間に起こる様々な「力の動き」を緩衝する役割を担っています。例えば上腕部というのは上腕骨一本で構成されているので、そこにかかった力を逃がすことができませんが、前腕部は橈骨と尺骨の二本が柔軟に動くことで、かかる力を逃がすことができます(足指の五本ならなおさらです)。これは足部でも同じことが言えますが、上肢は肘から先の「手部」で地面を柔軟に掴み、安定できる仕組みを持っています。ここで安定するからこそ、より上肢の上腕部や胸部が一切に余計な緊張をすることなく、本来の自由な動きが確保されるのです(呼吸運動も含む)。

 

 これを二足歩行の私たちに置き換えれば、モノを持つという時、それがよほどの重量物でなければ、モノを支えるための複雑な動きは肘から先の「手部」で簡潔していることが理想です(持ち上げるための「単純な力」なら上肢や体幹に頼ってよい)。これが上腕の動きまで借りて行うことになってしまうと、上腕部が骨が1本という構造のため、その力はダイレクトに胸郭にまで影響することになります(呼吸機能に影響が及ぶ)。人にとって手部というのは、体から発する力(上腕も含む)を肘から先の複雑な機能で「繊細な力」へ変えていく装置です(それが可能となる機能を有している)。しかし大抵に人はこの手部の機能を生かさず、その不足分を上腕や胸郭の動きで補ってしまっているのが普通です。この不活性となっている手部の機能を最大まで発揮させるというのが、術式の二の体の操法の目的です。

 

 ただし「肘から先をいろいろ動かす」というだけでは訓練にはなりません。気付かないうちにその動きを上腕や胸郭が補助してしまうからです(そういう癖がついてしまっている)。そこで術式の一の体の操法が役立つのですが、術式の一では全身の関節が固定されているため、その状態から手部を動かすと、肘が固定されたままである以上は全ての動きが手部のみで完結されることになります。これは実際にやっていれば分かることですが、全身の関節を固定した状態から手部を柔軟に動かそうとしても思う様には動いてくれません。普段いかに手部の機能を独立させて使っていないかが露呈してしまうからです。全身を固めた状態のまま、手部のみを自在に動かすことができるようになれば、そこから可能になる施術の幅は飛躍的に広がることになります。