対象と反対の力を用いる

 

 術式の一は単純に「強圧」を基本としましたが、その扱いに慣れてくると適度な緊張程度でも同じ性質の施術を行うことができるようになります。そして術式の二は、これを前提として「精度の高い細かな手技」を行っていく施術です。つまりこの時点で「安定した強圧」と「安定した弱圧」の双方が使えるようになっているわけで、この二つの刺激をどう使い分けるかが重要となってきます。これを簡単に言えば「強い対象には弱い刺激を」「弱い対象には強い刺激を」となります。これまでは「強い緊張(支点)」に対しては、その緊張と同等かそれ以上の刺激が基本であると説明してきましたが、それはあくまで基本であり、実際には「同じ土俵で勝負をしない」という方が高い効果を得ることができるものです。

 

 強い緊張(支点)というのは、同じ種の「強い刺激」に対してはより強く抵抗することができます。しかし正反対の「弱い力」による刺激に対しては抵抗が苦手なので、比較的容易に施術の効果を得ることができます。この場合の「弱い力」とは、先に説明した「一つの緊張が有する複数の拮抗」で、これはどんな緊張にも反応するポイントとして「強い力」「中程度の力」「弱い力」の区分があると説明しました。そのうちの「弱い力」によって拮抗させるということが、強い緊張により有効であるということです。実際には一つの緊張でも拮抗に用いる力の量によって弛み方が違うのですが、強い緊張に対して強いで刺激に弛めた場合は、その緊張が戻りやすいものの、弱い刺激によって弛めた場合はその緊張が戻しにくくなるものです。

 

 これは逆でも同じで、「弱い」と思えるような緊張に対して強い刺激を用いるとやはり有効に作用します。緊張と言うのは「同種の力」をぶつけるよりも「異種の力」をぶつけた方が反応しやすい上に、その効果が持続しやすいわけで、術式の二ではそうした力の使い方を主体としていきます(強固な緊張に対して弱い刺激を多用していく)。これについて別の視点から説明すると、それは「固さと柔らかさ」に置き換えることができます。例えばガチガチに固く緊張している男性の体に対して、これに女性の力で対抗しようとしてもなかなかうまくはいかないものです。しかしそこで施術の性質を「弱く柔らかい力」に変えると、少し待っているだけで簡単に弛んでしまうものです(待つことが重要)。

 

 逆に一見すると「ふにゃふにゃ」な女性の体と言うのは「柔らかい力」には反応しにくいのですが、これを「固い力」に変えると非常に反応しやすくなります。ここで重要なのは「強さ」より「固さ」なのですが、ある程度の固さを得るためには、相応の力も必要となるので言葉上では「強い力」としているだけです。さらに細かく言うなら、どんな緊張にも「過程」があるわけで、それが「瞬間的に起こった緊張」であれば急圧のような刺激は意味をなさないものの、「ゆっくりの刺激」ではよい反応が得られます。逆に時間をかけてじわじわと成立した緊張なら、急な刺激によく反応します。重要なのはその緊張の持つ特性に対して「同じ土俵で勝負をしない」ということであり、あえて異なる力を意識することで改善することは容易になっていきます。