全身が整う部位

 

 いろんな療法の中には「○○さえ治せば体は治る」と謳うところは多くあります。こうした考え方について、それのみに頼り切ってしまうことは問題だと思いますが、そうした考え方が成立するための「相応の背景」を理解しておくことには意味があると思います。実際に体には「ある局部を徹底して治すと全身が驚くほど変化する」という部位が幾つもあります。例えば大和では「下腿を含めた足部」を非常に重要としていますが、この局部への施術に慣れてくると、そこからだけで全身を思うように操作できる感覚となります(実際に全てが操作できるわけではないのですが)。このようにある局所への施術だけで全身を著しく変化させることのできる部位というのは体に多くあるものです。

 

 ただ、そうした部位というのは良くも悪くも「全身を変える力」を持っているわけで、それを身体機能を正すために活かすには、その局部の扱いに熟達する必要があります。個人的には「足部から全身を変える」という仕組みを知りたい時には、全ての患者さんへの施術を「足部のみ」に限定し、足部からある程度まで自在に体を変化させられるようにこれを続けるのが理想だと思います。施術を「足部のみ」に限定することで、足部の機能と全身の関連を考えるようになりますし、あとは経験を積めば積むだけいろんな操作が可能となっていきます。体は「繋がっている」わけで、どこか局部に一つの変化が起これば、それは必ず全身に影響するものです(表面的な見える・見えないは別にして)。その中でも特に影響力が強い部位というのがあるわけで、そうした部位の扱いに熟達することは、先々の施術の中で重要な意味を持ちます。

 

 これは個人的な意見ですが、全身を大きく変化させることの出来る局部としては「足部(下腿を含まない)」「下腿部」「骨盤部(股関節を含む)」「腹部」「胸郭」「前腕部」「手部」「顎部」「頭部」などが相当すると思います(基本の段階でも扱える部位)。これらの部位で共通することは「体の中でその機能が複雑かつ重要であること」や「神経連絡が発達していること」などです。つまりその局部に複雑な機能が詰まっているわけで、そうした部位が全身の機能の中で担っている役割は大きく、そのために全身への影響力も強いということです。例えば「前腕部」などはただ橈骨・尺骨という二つの骨で構成されている「構造の単純な部位」と思われがちですが、もしこの部位を「本来の正しい機能」に戻すことができれば、その影響は運動器に限らず内臓や脳の機能にまで強烈に作用します(それほど扱いが難しい部位でもあると言えます)。

 

 こうした各部位は、長い時間をかけてじっくりと向き合うでもなければ、その奥深い機能に気付くことさえできません。そのため、局部を扱う術式二の段階でこれらの扱いに熟達して欲しいと考えるのです。こうした部位の扱いを理解するのに必要なのは「全ての愁訴をその局部から治す」という意識で、まずはどこか一つの局部からでも全身との関連性を理解し、全身を変えることができるようになれば、それが一つの「基本形(雛形)」となります。あとはこれを他の部位に応用させていけば、比較的短期間にそうした扱いに熟知することができる筈です。実際には体の各部位に優位性があるわけではないのですが、これらは「全身との関連を理解しやすい部位」であると考えて下さい。前述の部位以外は「機能的に重要度が低い」というわけではなく、重要部位の扱いに長けることでそうした多部位の重要性に気付くことができるものです。体は全てが繋がっているので、最終的には条件さえ揃えば指一本から全身を大きく変化させることも難しいことではありません。