脊椎近隣で起こる「灼熱感」

 

 体の中でより重要な役割をはたす視点に対して、施術者が術式一の体の操法を正しく行った場合、そこでは押圧刺激に対して「灼熱感」という感覚が生じます。これは神経の働きが密になっている重要部位で起こりやすい感覚で、その好例は脊椎周囲の「抗重力筋」です。抗重力筋は体を支えるために非常に敏感な反応をする筋肉すが、その働きに偏りが生じてしまえば姿勢そのものが崩れてしまいます。つまり姿勢に大きな崩れがある場合は、必ずここに重要な支点が存在しているわけで、仮にその中で中心的な役割を果たす支点に、術式一による一点へ収束した押圧を行い、その働きそのものに干渉することが出来れば、その瞬間に受け手は通常では感じ得ない特殊な痛みである「灼熱感(焼けるような痛み)」を感じることになります。脊椎への施術を行う際には、この感覚を出せるか否かが効果の有無に大きく関わってきます。

 

 抗重力筋といいう言い方をすると、それは立っている時などの重力に対抗する働きとなってしまうのですが、実際にはあらゆる状況での姿勢制御に関わります。この筋肉が常時働いていてくれているおかげで、私たちはどんな状態からでも「すぐに動く」ことができるわけで、その働きは寝ていようが座っていようが、常に神経連絡を密に行っています。その働きは「姿勢の制御」に加えて、姿勢そのものを常に認識し管理することで、全身を脳の制御下におくことにあります。つまり横になっている時でも、その状態なりの「安定」を保つために最低限の神経連絡を密に行っているわけで、そうした筋肉の敏感さは他の筋肉とは著しく異なります。これが「歪んだ姿勢」の場合には、その歪んだ状態を維持するために神経連絡がより密になっており、そうした働きのとっての中枢となる支点に的確に刺激を加えた場合にのみ、「灼熱感」という独特の痛みが生じることになるのです。

 

 ただ、そうした意味が発するような支点は、体にとって非常に大事な部位となるので、筋肉によって厳重に守られているものです。よって通常に触れただけでは特に変わった反応も起こりません。そして、こうした支点は重要であるがゆえに非常に強い力を持っています。仮に見つけることが出来たとしても、ただそれを強く押すだけでは通常の反応(痛み)しか起こりえません。そこに必要なのは、まず全身の力を体の外へ逃がすことなく内にため、その力を全て押圧に向けること。加えてその力を厳密な一点に確実に収束させること。加えて「弾く感覚」によって対象が逃げられないよう確実に固めてしまうことです。この条件が揃うことで、刺激に対して「灼熱感」という感覚が生じ、支点を通じて神経連絡が密になっている一帯にその影響が強く作用することになります(よく言われる「響く」という感覚の延長)。

 

 脊椎は姿勢に関わる重要部位ですが、そのバランスは先の抗重力筋の働きによって決められています。よって、いくら表面的な筋肉の緊張に対して変化を与えたとしても、中核となる機能に干渉することができなければ、根本的な変化を期待することはできません。そしてそうした機能は、外部からの刺激に影響を受けることがないよう、厳重に守られているものです。「灼熱感」というのは、こうした部位・機能に正しくアクセスできたか否かを見極める尺度でもあります(灼熱感が起こった時点で姿勢制御の根幹の機能に干渉できているということ)。そしてこれは、術式一の体の操法が正しく行えているか否かを客観的に判断できる尺度でもあります。触り方を工夫すれば、瞬間的に「灼熱感」を引き出すことは可能です。しかしその機能を押圧によって完全に抑制し、消し去るためには、それを安定して押さえ込み続ける必要があります(僅かなブレがあってもいけない)。これを可能にするのが術式一の体の操法であるということです。