ダルマさんが転んだ

 

 施術で体を触れる時、自分が触れようと思っている対象にその力を明確に限定するのは難しい作業です。これはその対象を「厳密な一点」と考えて下さい。一点ではなく目的とする層(深さ)でも同じことです。仮に体表を触れるという場合、その対象について施術者の用いる力が効果的に作用するためには、体・手指・意識の三つが一致しなければなりません。例えば「壁」に対して触れるという時は、まず触れる対象である壁の位置が明確であるため、手が壁を触れる瞬間と、本人の意識は自然に一致します。ただしここでは体はなかなか一致しません。ではこれが「目の前の大きな石を押す」となると、石を押すために自然と全身の力をその瞬間に合わせようとするので、ここで「手指・体・意識」の3つが触れた瞬間に「ピタッ」と合いやすくなります。この3つが合った時に体は初めて本来の力を発揮できるのです。

 

 これが、対象が「体」となると途端に難しくなります。これは壁を触れた時に感じる「ピタッ」という感覚を、体(この場合は表面の皮膚)でも同じように再現できるか否かということで、これが一致している場合とズレている場合では、体の反応は雲泥の違いとなります。一致していればそれだけで体の機能は整い、ズレていればそれだけで体の機能は崩れてしまいます。最初は手が体を触れて「掴まえる」瞬間と、意識でその対象を掴まえるタイミングを一致させます。これが出来るようになったら、次はそこに「体」も加えていきます。大和整體では「手の動きは臍の動きと同じ」と説明するのですが、手先だけの手技には体に対して何の強制力も生じません。そこで得られる変化はあくまで「小手先の反応」でしかないのです。体に対して強制力の強い手技を行うためには、全身の動きが先であり、その延長として自然に手が動くというのが基本です。これに意識が加わった状態で、対象を触れた瞬間に3つの全てが「ピタッ」と止まることができれば「体に対して強制力の高い触れ方」が成立することになります。

 

 この時の触れる感覚の比喩として用いるのが「ダルマさんが転んだ」の体を瞬間的に止める感覚です。この場合、止まるタイミングは施術者の手指が目的とする対象を触れた瞬間となります。体と手指と意識が同じように動き、手が対象を触れた瞬間に全てを同時に止める。「ダルマさんが転んだ」の時の静止は誰でもそこに「ピタッ」という感覚がある筈です。これと同じ精度でキレイに3つ全てを止めることができると(その瞬間は息も止まります)、その瞬間に受け手の体は「捉まった」という感覚になり、僅かですが体の自由が効かなくなる感覚に陥ります。これは精度の高い施術に対して「体が全身で反応した」という結果であり、こうした時の体は僅かな刺激にも敏感に全身反応をするものです。この体と手指と意識を瞬間的に「ピタッ」と合わせる感覚は術式一の施術では必須であり、これを応用していくことで体の表面・深部を問わず、任意の対象を掴まえ、反応させることが可能になります。これは効果以前に、それらが一致せずに触れればそれだけで体の機能が乱れてしまうことになるので、最低限度として出来るようになっておいて欲しい施術の感覚です。