弾くという施術

 

 先に施術には「反発」と「浸透」があると説明しました。術式の一の体の操法はこのうちの「反発」に属します(術式の一から三までは全て「反発」)。これは「体の表面の張力を均一にする」ということがそのまま「反発」の性質になっているためで、互いの体の境界を保ちつつ行う施術です。またこの施術は「施術者自身の身を守る」ということが前提となっています。施術に不慣れな段階で無闇に「相手の体と繋がろう」とすれば、相手の体の悪い状態を受け取ってしまうだけでなく、自身の施術による不十分な変化などの、体を不安定にした場合の影響も受けてしまうためです。また互いの境界を明確にしている限り、安定の体はこの「境界」によって守られているようなものなので、施術によって「壊してしまう」ことは圧倒的に少なくなります。

 

 ここでは「反発」をより感覚的な言葉で「弾く」と言い換えておきますが、意図的に相手の体を「弾く」ことには大きな意味があります。あえて互いの体の境界を明確にすることで、そこから行う施術は体の表面にのみに作用することになります(正しくは表面を介してのみ内部へと作用する)。一般的に体は外部から何らかの力(刺激)が加わった場合、それが体の内部環境=恒常性に影響を与えることがないよう「防御」による保護を行います。これは施術にとって邪魔なものと捉えられがちですが、この防御反応がある限りは、施術による変化・効果は体の側で「よい変化・悪い変化」を取捨選択して受け入れることになるため、仮に施術者が誤った施術を行っても体は壊れません。これに対して「浸透」は、この防御が機能しない状態を前提とする施術なので、「誤った施術」がそのまま体を壊してしまいます。「弾く」という感覚で行う施術は、この体の防御機能をあえて強く作用させ、互いが安全な状態で施術を行うという意味があります。

 

 また「弾く」感覚で体に触れると、体の状態を分かりやすくさせるという意味も持ちます。弾く感覚によって体に抵抗が生じている状態というのは、体の表面のみに強い緊張が起こっているため、運動器の状態(善し悪し)が分かりやすくなり、かつ解消もしやすい状態となります。表面の緊張は運動器の全てを緊張させるのではなく、運動器の中での緊張と弛緩の減り張りを強める方向に作用するので、悪い処がより浮き立ちます。それによって誰でも「患部」を明確に見極めることができますし、一定以上に緊張を強めた組織は施術の刺激によく反応するため、効果も得やすくなるのです。また施術の対象が体の表面に限定されはしますが、表面に起こった変化は間接的に内部・深部へと作用していくため(それも抵抗によって選択的に受け入れられる)、危険性を伴うことなく、体の表面から体の内部までをも確実に変えていくことができます。

 

 施術でその効果が高いのは「浸透の施術」ですが、同時に危険性も伴います。また相手によって「反発」「浸透」のどちらが適しているかもあるので、まずは「反発」によって体の仕組みや反応の仕方を経験的に覚え、慣れていく過程で徐々に「浸透」も扱えるようになっていくのが理想であると考えるのです。最終的には「理想的な反発」と「理想的な浸透」の双方を扱うことができ、施術の要所要所でその使い分けまでができるようになれば、それはどんな優れた技術を身につけるよりも「その人の体に応じた自然な変化」を引き出すことに繋がるのだと思います。「弾く」という感覚で行う施術は、相手の体を壊さないためにも、また自分の身を守るためにも基本の段階では必須の要素であり、かつ慣れない者でも体を確実に正しい方向へと変化をさせることができる確実性の高い施術となります。