急圧と支点の解除

 

 用いる部位が手掌であれ手指であれ、押圧による力の伝達は瞬間的に行う場合と緩やかに行う場合の二種が基本となります。特に全身を固めての強圧では「瞬間的な力の伝達」が基本となります。これは体の内に溜めた力を瞬間的に「打ち出す」ような押圧で、対象となる小さな支点を確実に固定するという点で有効であるだけでなく、先の「体が釣り合う」という感覚を最も作りやすい施術でもあります。実際には手部だけの動きではなく、全身の関節を連動させて押圧に必要な一センチ前後程度の動きを作りだすのですが、特に重要となるのが手部の動きです。これは人の体より壁などの動かない固定物を相手に行う方が分かりやすいのですが、壁に手(指)を着いた状態で全身の筋肉の張力を均一に安定させ、全身の筋肉を瞬間的に収縮させて一センチ程度だけ全力で壁を押します。壁は動かないので押した分の力は応として自分に返ってきますが、この時全身の関節位置・筋肉の張力が一切崩れなければよし(お腹から力が出てそのまま手に伝わる感覚)。どこかの関節や筋肉でバランスが崩れるようなら失敗です。

 

 この時に特徴的なのが前腕の動きで、用いるのが手掌・拇指なら前腕は内旋となり、用いるのが手指なら外旋となります。先に大和整體の施術は肘関節を曲げることで力を溜めるとしました。この溜めた力を内外旋の動きで解放するという手部の操法で、瞬間的に強い力を出すことが可能になります(これも含めての強圧とする)。強圧で全身の筋肉を収縮させると同時に、前腕に瞬間的に内外旋の動きを加えるのですが、用いるのが手掌・拇指なら内旋動作で手部を固め、手指なら外旋動作で手部を固めます。これを瞬間的に行うことで、力を一瞬で患部に伝達させる「急圧」が可能となり、また回旋によって力をより一点に集中させることもできます。この動きは手掌・拇指の内旋は肘を深く曲げるほど強く固めやすく、手指の外旋では比較的肘が伸びている方が強く固めやすくなります。

 

 これは言葉を変えれば、どんなに自分の体を操作したところで、強圧の際に実際に強い力がかかれば手掌・拇指・手指なりを、全くぶれることなく強固に固めておくことは難しいので、あえて急圧を用いることでその確実性を高めておく練習であるともいえます。先に「十の力を十のまま伝える」という説明をしましたが、この時に生じる「力の漏れ」が最も大きいのは手部です。押圧が拇指や手指であれば指の関節や手関節から簡単に力が漏れますし、手掌でも手関節から簡単に力は漏れてしまいます。押圧の瞬間にこれらの関節が一切ぶれないことは押圧の必須条件です。また瞬間的に押圧を行うことで微妙に揺れ動く対象を確実に掴まえることにも慣れておく必要があります。対象=支点というのは「生きている」ため、施術による刺激に非常に敏感です。そのため、ゆっくり捕まえようとすれば無意識の反応によって逃げられてしまいがちです(個人差が大きい)。これを「瞬間的に捕まえる」という感覚は、よく「動いている虫にピンを刺す」に例えて説明をしています。別の言い方をするなら「射抜く」という感覚も似たようなものです。ただし「打ち出す」といっても実際の動きは僅か数ミリですし、押圧の力の性質が「反発」なので、その刺激が受け手の体の深部に強い影響を与えるようなことはありません。この押圧の際の手部の操作は、緩やかな押圧の時でも同じように用いていきます。

 

 加えて説明をするなら、支点というのは単なる「筋肉の緊張の中心」というだけではなく、そこに「受け手の意識」も関わってきます。「本人の意識」ではなく、体にも独自の意識があるのですが、これはその人の体の中での「重要部位」が常に神経を活性化させて敏感になっていると考えて貰って構わないと思います。そして自身の体にとって重要な役割を担っている「支点」には、必ずそういう強い「体の意識」が介在しているものです。ここで説明している急圧の目的は「支点を意識ごと捕まえる」という点にあり、体の意識ごと捕まえることで、その支点の解除が結果的に全身の反応に直結するわけです(刺激に対する神経反応が著しく高まる)。しかし局部に集中している体の意識というのは刺激を嫌うため、そこに強い刺激が加わりそうになるとその反応を他へ移すなどの方法で「逃げて」しまいます。これを急圧によって一瞬で捕まえるということが重要な意味を持つのです(意識が介在しなくなったただの物理的な緊張=支点を消すことに大きな意味はない)。