体の張力の均一化

 

 術式の一の体の操法を、毎回関節一つ一つまで確認しながら行うのでは大変です。慣れてくれば「大体こんな感じ」となるわけですが、これだけでは実際に正しく行えているかが怪しくなります。そのための確認の方法として「全身の皮膚の張力が均一になっているか」という目安があります。そもそも全身の主要な関節を「均等に固める」ということが出来ていた場合、全ての関節を支えている筋肉の緊張度=張力はほぼ均等な状態にある筈です。これは「全身を包む筋肉の張力が均一である」ということになるので、その結果として筋肉のさらに表面にある皮膚の張力もほぼ均一となります。実際に全身を均等に固めることができた時は、全身の表面が何かに均一に包まれているような感覚を覚えます。これは「体の表面(皮膚)の張力が均一な状態」で、全身の関節を均等に固めることができているかの尺度となります。

 

 実際の施術では、最初に「全身を均等に固める」ということが出来ていても、施術を行っているうちにそれが崩れたりすることは多々あります。これを補う方法として「全身を均等に固めた時の感覚」を維持するという方法があります。これは、その感覚さえ維持していれば、実際の体で均等な固定が多少崩れてもそれが施術には影響しないということです。自身が「いい状態」の感覚を維持し続けている限りは、僅かな乱れは問題にならないものです。具体的には、施術者が最初の「体の表面が均一な感覚」を維持できていれば、体はその固定が多少崩れても「施術に支障のない範囲では動いてくれる」ということです。もちろん理想は確実に全身の関節が均等に固定された状態を維持することですが、「施術の実用範囲」ということを考えれば便利な方法です。施術の内容によって「体の動きの精度が低くなっているな」と感じたら、また全身を正しく固定し直せばいいのです。

 

 術式の一の体の操法は、最初こそ「全身を全力で固定する」といった印象の施術ですが、慣れてくるとある程度の力で固定ができ、動けるようになってしまいます。仮に最初に全身を均等に固定するための力を「10」とすれば、それが順に「8」「6」と減っていき、最終的には「1」の力でも同じことが出来ることを理想とします。この場合、「関節を固める」という印象はなくなり、ただ「関節を安定させている」となります。関節を構成する骨と骨の位置関係を正確に把握できていれば力の量は問題ではありません。そして、先の「表面の張力の均一化」というのは、どの力の量の段階でも共通して得られる感覚です。強い力を用いているうちは、自然と関節の感覚も強まるので正しく実感できているかが分かりやすいのですが、用いる力が弱くなってくるとそこが曖昧になりがちです。そうした場合に「表面の張力が均一になっている」ということが、正否の重要な指標となってくるのです。

 

 この表面の張力が均一な状態というのは、施術者側の尺度として重要なだけでなく、受け手の体にとっても重要な意味を持ちます。これはやってみればすぐに分かることですが、施術の内容以前に「張力が均一」の状態で体に触れると、それだけで体は安定します。逆に「そうでない状態」で触れると体はより不安定な状態となります。これは体に触れている私たちの体が「統一感のある安定した存在であるか否か」によるもので、普通に触れてしまえば私達が体の中に抱えている様々な不安定要素を、そのまま相手の体に伝えてしまうことになってしまいます。これに対して「張力を均一」とした状態で触れることは、そうした身体内部の不安定要素を「隠す」ことに繋がり、自身の体による悪影響に煩わされることなく、意図した施術を行うことができるのです。

 

 ただし実際の「張力の均一化」は体に触れることで完成するものです。自身の身体操作だけで張力を完全に均一にするのは難しいのですが「対象に触れる(押す)=対象から押される」という僅かな力が加わることで、強く安定した「張力の均一化」が可能となります。