強圧と力の操作

 

 先に説明した「基本姿位」を実際に行うと、全身を固めた状態を維持するのに手一杯で、まず動くことは叶わないと思います。私たちの日常は、関節の遊びという「関節のルーズさ(不安定さ)」に頼って体を「適当に」動かしているので、いざ関節を固定してしまうと動けなくなるものです(慣れれば苦もなく動けます)。これを基本姿位として、実際には関節を固めるための動きというのは複数あるので、施術の動きに応じて各部の固め方を変えていきます。特殊な体の使い方と感じる方は多いでしょうが、これと類似した体の使い方としては琉球空手の「三戦(サンチン)」というものがあります(関節を締める考え方は同じです)。

 

 サンチンというのは、体を最初に固めた状態をつくり、その状態を維持したまま一定の型で動く稽古ですが、その動きの最中は周囲から他の人が攻撃を行い続けます(見えない方向からも)。行う人はただ自身の体を完全に固めつつ動くことに集中し、体を固めることのみであらゆる攻撃を「跳ね返す」のです。これは「体を完全に固める」ということと「体を動かす」ということが相反することではないという好例です。当然、動作の最中に少しでも固定が弛んでしまえば、攻撃を受けた時に体は崩れてしまいます。固めた状態(同じ状態)を維持しつつ動くことに重要な意味があるのです。術式の一の体の操法も、全くこれと同じです。全身を固めているという安定状態を堅持しつつ、目的とする施術を行っていきます。

 

 しかし、最初は相当の力を以て全身を固めているので、その状態を維持できたとしても、そこから行える施術は自然と「強圧」に限られてしまいます。なので、術式の一の施術は、強圧主体となります。その基本的な方法は「一点圧」で、全身の力を5mm程度(理想は2〜3mm)の範囲に集中させるというものです。全ての術式について、体の操法の目的は「体を制御する(体を自在に動かせるようにする)」ことにあります。「全身を均等に固める」というのはその第一歩であり、その固めた状態を固めたなりに使いこなせなければ意味がありません。幸い、主要な関節は全て「遊びがない状態」となっており、関節を構成する骨同士の位置感覚が1mmのズレも敏感に感じられるほどの状態になっているので、骨の動きに正確な微調整を行えるだけの条件は揃っています。この状態では「揺らぎ」による不確定要素はないので、修練次第で「体を正確に使う」ことができるのです。

 

 全身の力を小さな対象の一点に収束させるためには、全身の各関節を「絞る」ことで、その力の範囲を調整していく必要があります。この状態は一応「全身が固定されている状態」とはしましたが、その維持に強い力を必要としなければならない段階では、必ずしも「安定した固定」とは言いがたいものです。各関節の固定は「固定したらそれで終わり」ではなく、固定することで「正確に使う」ことができる準備が整ったということです。そこから微細な動きを行うだけの「余裕」がなくはいけません。その余裕が生まれれば、体が発する施術の「大まかな力」を、一点の力へと収束するための「絞る動き(主に内旋の動き)」が可能になります。その力を収束させる対象は「支点」なのですが、支点というのは非常に強い力を持っています。これに対して全身の力をその一点に収束させることができれば、強い支点に対しての相応の影響力を与えることができます。