体を患部からほどく

 

 大抵の人では体の何らかの不具合を「強い緊張」によって庇い、補っているものです。それが多ければ多いほど緊張も強いわけですが、緊張の強い状態で何を行ってもなかなか思ったような効果は得にくいものです。そのために「緊張の支点を消す(全身の緊張を弱める)」という作業が有効と考えるのですが、普通は「悪い処を治す」というのが一般的な施術であり、かつ全身の緊張を弛めるために効果的な方法です。ただ、仮に「悪い処」が分かって、そこに施術を行っても、それはすぐ元に戻ってしまいやすいものです。そのために敢えて回りくどく「末端からほどく」「中心からほどく」という方法論を説明してきました。その上で「患部からほどく」ということを説明したいと思います。

 

 ここでの「患部」というのは「愁訴の部位」とは関係ありません。愁訴を痛みとすれば、そもそも「痛い場所」というのは「周囲より負担のかかっている場所」であるということです。体のバランスが崩れれば、動作の負担は全身に均等に分散されず、そこに偏りが生じるものです。そこで壊れるのはたいてい「構造的に弱い部位」であり、構造的な弱さ故に痛みが生じやすいということです。この場合、痛みが生じている部位はいわば「被害者」なわけで、仮にその部位で機能の乱れがあったとして、それを正したとしても、それは「構造的に弱い部位に更なる負担を強いる」ことに繋がってしまいます。これは「会社」と同じで、会社の皆が等しく働いているうちはいいのですが、誰かがサボれば誰かが無理をしなければいけないわけで、そこで無理をして「倒れた人」が「痛み」に相当するわけです。その倒れた人を「治そう」とすることは根本的な解決には繋がりません。

 

 体のどこかが壊れた場合(痛みなどの愁訴が起こった場合)、その部位に過剰な負担がかかっているとすれば、逆に本来の負担を担当していない、いわば「仕事をサボっている部位」があるわけです。この部位は正常に機能しさえすれば、動作の負担が正常に分散されることから、愁訴のある部位の負担も軽減していきます(その結果として治る)。こうした考えから、「愁訴の原因」となっている機能不全を探し出し、その機能を正常化することで全体の機能を正常化するというのが「患部からほどく」という施術です。体は本来のバランスが崩れると、その不具合を緊張によって補おうとするので、そのバランスの崩れを正すことで、結果的に全身に生じている「不要な緊張」も解消されていくと考えるのです。痛みがある場合などはそれを庇うために強い緊張が必要となるので、その原因を解消することでやはり緊張はほどけていきます。

 

 ここでの患部とは、体が本来「全身均等に動く」ものであるとして、その中で「最も動きの乏しい部位」となります(動きをサボっている部位)。もちろん動きが乏しい部位にも相応の理由があるわけで、それが「何らかの不具合を庇っている状態」であったり、「内臓の機能異常など関係する機能を守っている状態」であったりするわけですが、まずはそこに生じている緊張を弛めてみることです。本当に重要な問題を抱えているのなら、弛めた側からまた緊張する筈です。その場合は「何がその原因になっているのか」を探す方向へと切り替えていきます。こうした患部の緊張は「体の誤作動によるもの」と「必然性を伴うもの」に分けることができるので、前者であれば簡単に改善しますし、後者の場合ではその患部が「原因」を見極めるための重要な指標となります。