不可逆性の施術 2

 

 不可逆性の施術といっても、これは特別なことを行うわけではありません。例えば体にとって全身の緊張の中心となる支点があるとします。体はこれを起点として全身の緊張を構築しています。そこでこの支点を簡単に緊張できないほどに解いてしまうとどうなるか? 体からすれば、その支点の機能を復元させるために多くの時間や手間が必要であると判断した場合、やむを得ず別の支点にその役割を代行させることで「仮の安定状態」を作ります。これは簡単に言えば、通常の施術が当該部位の機能回復までをその目的とするのに対して、ここではその機能の一時破綻までを目的としているということです。その一時的な機能の破綻が体にとって回復が難しく、かつ他で代用した方が効率がよいと判断されるものであれば、その時点で体は別の安定状態へと移行します。いったん別の安定状態へと移行した体は、最初の状態に戻ることより新しい安定状態を強固にすることを優先させるため、この時点で不可逆性の施術が成立します。

 

 加えて言えば、全身の緊張の中心を担う「最も強固な支点」の機能を破綻させると、次に強固な支点へとその役割が移行するのですが、これも破綻させるとまた次の緊張へと役割が移行し、これを繰り返すと体そのものが不安定かつ流動的な状態となります(施術による変化を得やすい状態となる)。これは体に対して何段階もの変化を強要するという方法で、結果として何段階もその機能を変化させてしまった体は、簡単には最初の状態へと戻ることはできないため、やはり別の安定状態に落ち着こうとします。これも不可逆性の施術となります。

 

 こうした不可逆性の施術の方法論は、局部に対して一定以上の大きな変化を強いる「単純な施術」と、施術を重ねていくことで変化を複雑にしつつ大きな変化とする「複雑な施術」いずれかとなります。どちらも体が元の悪い安定状態に戻るよりも、新しい安定状態を作り出した方が効率がよいと判断させることで得られる変化です。そしてこの施術には、私達が外から見ているだけでは伺い知れない体の深層の働きを引き出す役割もあります。

 

 体は外部からの刺激(この場合は施術)によって、それまで全身を安定させていた機能が破綻すると、新しい安定状態を模索しますが、そうした過程で普段は表面化しない機能が表に現れやすくなります。具体的にはそれまで痛くなかったところが痛むなどですが、これは本来悪かった部位が、それまで全身のバランスからうまく痛みを感じないようになっていたものが表面化したために起こるものです。こうした体の潜在的な問題というのは多くありますが、通常の「悪い処を治す」という施術ではこれらが表面化することはないため、潜在的に悪化が進行しやすいものです。不可逆性の施術による体の再構成、再構築はこうした潜在的な問題を表面化させ、体の潜在的な問題を解消することにも繋がっています。