不可逆性の施術 1

 

 悪い安定状態に慣れた体に対して、施術によって体を整えたとしても、その効果は時間の経過と共に戻ってしまいやすいものです。体にとって、その受けた変化を元に戻しやすい施術を「可逆性の施術」とするなら、元に戻しにくい施術は「不可逆性の施術」となります。ある「悪い安定状態」にある体に施術を行い、変化をさせたとして、それが不可逆性の施術であった場合、体は元の「悪い安定状態」へと戻ることはできず、一次的に不安定な状態へと陥ります。不安定な状態に陥った体は、やむを得ず現状で構築可能な「仮の安定状態(別の悪い安定状態)」を作り出すことになります。ここで重要なのは「悪い安定状態」から「よい安定状態」へと移行する必要はなく、「悪い安定状態」から「別の悪い安定状態」へと移行するだけで目的は達するということです。

 

 「悪い安定状態」というのは、諸事情によって体の正しい機能が損なわれていく中で、体自身がその状況なりに作り出した安定状態です。当然、体本来の充分な機能を発揮できるわけではありませんが、大抵は日常生活を支障なく過ごせます(愁訴や疾病があるとしても全体の機能は破綻しない)。これはつまり、体がその内部に多くの不具合を抱えていても、それなりに動ける状態を作っているということです。この「悪い安定状態」は、それが長期的に持続するほど強固に安定するので、こうした体を施術によって変化させることが難しくなります。こうした体に対して、まず考えるべきは「整える」以前に、悪い安定状態から脱却させることです。そのために体に不可逆性の変化を与え、それまでの「悪い安定状態」へと戻れない状況を作り出します。「仮の安定状態(別の悪い安定状態)」へと移行した体に、更に施術を行いまた別の「仮の安定状態」へと移行させる。これを繰り返すことによって体は次第に最初の強固であった「悪い安定状態」へと戻ることができなくなります。

 

 それが良い状態であれ、悪い状態であれ、強固に安定した体というものは施術による変化を引き起こしにくいものです。体は本来、周囲からの刺激に敏感に反応する流動的なものであるべきで、それがある一つの安定状態に固執するということ自体が大きな問題なのです。それが「悪い安定状態」であったなら尚更です。つまり重要なのは一つの安定状態に固執している体を、流動的に変化しやすい体へと変えていくことで、大和整體にとってこれは体を整えることより優先すべき事柄です。

 

 体は毎日いろいろと使っていれば、どこかに負担が蓄積して痛みや機能不全に陥ることはあります。しかし体が流動的な状態であれば、その痛みは一カ所に留まらずに体のあちこちを移動しながら最終的に治癒していくものです。問題なのはそうした痛みが一カ所に留まり続ける状態(一般的な愁訴)であり、こうした問題はその痛みを直接改善するより、体そのものを流動的な状態へと移行させる方が後々を考えれば良好といえます。