体の部分と全身

 

 施術で足部の機能を優先させる理由は、立位におけるその重要な役割に加えて、足部の機能が複雑なことも関係しています。人体の中で足部や手部は他の部位と比べて多くの細かな骨が密集しています。こうした部位ではその動きの仕組みが他の単純な部位(一対の骨同士で構成される関節)と比べて、その機能が非常に複雑化しているため、そこに問題が生じた場合の回復も難しくなります。また、こうした緻密な構造を持つ部位には、体の捻れや歪みが集中しやすくなるため(複数の関節で多くの歪力を蓄積することができる)、実際に機能的な問題が生じやすくなっているものです。ただ、これは言い換えればそうした部位の機能を改善することで全身の諸機能が著しく正常化しやすくなるということにも繋がります。こうした理由に加えて、先の「足部が立位の起点であること」の二つから、足部への施術というのは多部位の施術と比べても特別な意味を持ちます。

 

 これは別の見方ですが、「部分は全体を現し全体は部分を現す」という考え方があります。これは全体の一部を切り取った一部にもその全体性が再現されており、逆もまた同じということですが、これを体に当てはめると、どんな部位にもそこには全身の機能の状態が反映されていることになります。実際にこれを利用して特定の局部から全身を調整するということはよく行われますし、局部が一定状に正しく機能することは必ず全身の正しい機能へと繋がっていくものです。ここでは施術の対象となる足部にも必ず全身の状態が反映されているということになるので、足部の機能を一定以上に整えることは、直接的に全身を整えることとなります。ただしこれは反対の見方をすれば、足部の問題とは全身の状態が反映された結果なので、幾ら足部の機能を正しても、全身の機能が正常化しない限り、足部も本当の意味で正しく機能することはないと言えます。

 

 ここまでの説明を踏まえて、施術対象を足部に限定し、徹底してその機能を正すことには大きな意義があります。足部への施術は基本的に「連動の回復」へと繋がるため、足部へ施術を行えば行うほど、連動の詳細な問題が全身に浮き出てきます。そうして足部以外に現れた問題は、全身の状態を反映している足部への施術からでも改善することが可能なわけで、足部に施術部位を限定することによって、その機能を高め、連動の動きを回復させると共に、足部から全身の状態をよく把握できることになります。施術を通じて体の機能を理解するといっても、その理解を「どの部位を起点とするか」は重要です。ただその都度「機能の低下している部位」を施術しているだけでは、体の諸機能の関わりあいやそのバランスの取り方などは理解しにくいものですが。その全身の機能を「足部」を起点にして詳細に観察することで、そうした深部の機能までも理解していくことが可能となりま(大和整體の施術は「浅く広く」ではなく「深く狭く」を基本とします)。足部は施術による僅かな変化が全身(の姿勢や動き)へと反映されやすい部位なので、全身を理解するための起点として適した部位なのです。

 

 

 ただし、ここで大和整體の身体観のひとつである「体は膝関節(肘関節)を境にしてその機能(役割)が変わる」ということが重要になってきます。大和整體が理想とする立位では、通常の接地に関わるあらゆる作業は、膝関節より下部でその全てが行われます。こうした状態では立位の際、膝関節より上位の部位には一切の余計な動きが必要なく、理想的な弛緩を伴った立位が可能となります。これをより理論的な説明に置き換えるなら「膝関節より下部が正常に機能することにより、地面の状態に関わらず膝関節の関節面が正しく水平に保たれる」。その結果として「膝関節より上位は安心して膝関節に乗ることができる」となります(膝=脛骨の上関節面は第二の地面)。

 

 しかし、たいていの人では膝関節より下部の機能が充分に働かないため、そこで生じる不足分(不安定さ)を腰や肩の緊張(動き)などで補うことになります。こうした動きが増大すると、次第に「肩や腰から生じた体のバランスをとるための不要な動き=体を歪ませようとする動き」が体の下位へと伝わり、日常的に膝関節より下部の動きに干渉してしまうことになります(膝より上位の体の捻れが膝より下位を捻れさせてしまう)。このために、たいていの人は「地に足を着く」という当たり前のことができなくなっています。

 

 こうした状態の体では、足部からは連動で体を整えるための「下→上の力(体を整えようとする力)」と、上位の肩や腰からは全身を歪ませようとする「上→下の力(体を歪ませようとする力)」が生じていることになります。この二つの力は体のどこかでぶつかることになるので、それが体のどの部位(高位)でぶつかっているかによって、全身の機能も大きく左右されることになります(理想は膝関節より下部が正常に機能することで相反する「上→下」の力そのものを生じさせないこと)。これが膝関節より上位でぶつかっている場合は、膝関節より下位は正しく機能できる状態にあるので、体の歪みに一定の抑止力が働いている状態となります(連動の体を整える機能が強い状態)。しかしこれが膝関節より下位でぶつかっている場合は、膝関節より下位の機能が損なわれてしまうため、体の歪みが大きく出やすい状態となってしまいます(連動による抑止力が働かない状態)。

 

 膝関節より下位が正常に機能しているということは、全身がその動きに合わせながら動くという、よい意味での「制約」があるということです、その制約の中で機能する限りは、体もそれほどおかしなことはできないものです。しかし膝関節より下部の機能が損なわれてしまうと、それは上位の体にとってみれば「好き放題に緊張できる(歪むことができる)」という状態になってしまうため、体は無軌道に壊れやすくなります。これはつまり、体の中でぶつかり合う「下→上(正の力)」「上→下(負の力)」がぶつかり合う位置が、膝関節より上であるか下であるかによって、全身の機能が正しく機能するか否かが決まってしまうということです。

 

 

 こうした考え方を前提にすれば、双方のぶつかりあう力が膝関節より下位に及んでいる場合、その体は既に「正しく機能できない状態」にあるわけで、そうした体に「体が治るための障害を取り去る施術」を行ったところで、正常な反応が得られるわけもありません。その場合はまず、両者の力がぶつかり合う位置を膝関節より上位へと押し上げる必要があります。そのために行うのが足部(下腿を含む)を整える施術であり、足部の機能をより高めていく(強くしていく)ことで、「下→上」の力を強めていきます。しかしこれは「体が治るための障害」を排除する施術と相反するものではありません。

 まだ経験の浅い施術者にとって「体が治るための障害(全身の機能が回復するためのポイント)」を見つけることは難しいものです。そうした場合は、まず無条件に足部へと施術を行うことを勧めています。足部への施術によって「下→上」の力が強まるということは、その強まった力が上位からの「歪む力(上→下)」をより上位へと押し返すことになるのですが、たいていはどこかで止まります。そのぶつかり合った部位には「下→上」の力を遮る「何らかの理由」があるわけで、これがそのまま「体が治るための障害」といえます。ぶつかり合った部位の周辺には運動器なり内臓なりの明確な機能障害があるものなので、これを改善すればよいのです。これを繰り返していくことで、体の下位から上位へと順に「体が治るための障害」を消し去っていくのです。これなら誰にでも確実に「体が治るための障害」を消し去る施術を行うことができます。

 体に生じている機能不全や愁訴が何であれ、「地に足を着く」ことができていない状態で発揮できる体の機能は限られているものです(治癒力も限られている)。そうした中で体のどこが壊れたとしても、それは「壊れやすい状態」にあるから壊れたのであり、そうした体でいる限りは治してもまたすぐにどこかが壊れます。「愁訴に関わらず足部へ施術を行う」ということは、「患者さんの不満を招くのではないか?」と心配をする方が多いのですが、足部の機能が高まることによって得られる「身体機能の向上」という恩恵は大きなもので、愁訴を直接解消することには繋がらなくなても、「体がよくなった」という実感は強く得やすいものです。大和整體ではその指導の中で「困ったら足部」ということを徹底しています。

 

 その足部を具体的にどう施術していくかについては、まずは「感覚の回復」を優先していきます。脳から最も遠く、その感覚が著しく低下しやすい足部では、たいていの人がその「感覚の鈍さ」ゆえにうまく機能できない状態になっています。これは足の指のどれか一本(拇趾と小趾はのぞく)を触って「何指を触っているか分かりますか?」と聞くと、半数以上の人が正しく答えられないことでも分かります。足部が正しく接地するというのは、逆立ちの時に手が体を支えることと同じです。逆立ちでは誰しも五本の指でしっかり体を支えようとするのに、足部となると指をほとんど使わない状態にあるものです。まず指で地面を掴み、その力が中足骨、足根骨、脛腓骨へと正しく伝わり、膝関節より下部の全体で地面を掴む。そのために感覚が低下している部位ではそれを高め、機能が低下している部位ではその機能を高めていくのです。

 正しく機能していない足部(下腿部を含む)を触り慣れている施術者にとって、指先や足関節(距腿関節)は柔軟に動くものですが、それ以外の足根骨や脛腓骨は「体を支えるために固い構造をしている」という誤解が生じやすくなっています。これは幼い子供の足首を触れば分かるのですが、幼い子供では指先から下腿までが均一に柔らかく動きます。これは加重(体重)がかかればより顕著で、足先から下腿に到る全体が「地面を掴む」ために連繋して動くようになっています。私たち大人がこうした柔軟性を失った背景には、頭主導の社会生活の中で常に緊張を強いられるため(上半身の機能ばかりが強まるため相対的に下半身が弱くなる)など、いろいろな背景がありますが、足部の正常な感覚および機能を取り戻すということは、身体機能を整える全ての施術において、文字通りその基盤となるものです。