全身の機能を整える

 

 支点の解除による施術の進め方は、その対象を筋肉の緊張(交感神経の活動状態)に絞るものです。ただ、不要な緊張を取り去ればそれだけで体が正しく機能するかといえば、それは難しいと言えます。これを補うものが先に説明した「連動」で、体の自然な立ち方を施術によって補助することで、その運動機能が率先して整えていきます。「支点の解除」が不要な緊張の排除によって体自身にその機能を整えさせる「受動的な施術」であるとすれば、こちらは施術者がその機能自体に関与する「能動的な施術」と言えます(あくまで立位のバランスに関する機能に限定)。基本の順序としては、まず「支点の解除」によって可能なところまで施術を行い、それだけで整わない場合に「連動の回復」を用いていくものとします。

 

 連動の回復は体の機能の善し悪しを主に「足部/骨盤部(股関節部)/下部胸椎/上部胸椎/頭部」といった部位の動きで判別していきます。足部と頭部については、足部がつま先への加重、頭部が屈曲の動きとする以外は、全ての部位が「正しく伸展できているか」ということで、その機能の善し悪しを判別するわけです。まず足部については、足部の機能を高めることでつま先への加重を強めることができれば(足部が正常に機能すれば加重は自然につま先側に集中する)、これが連動の出発点となります。体が正しく機能していれば、それだけで以後の連動の動きが全て正しく行われるということです。ただ、実際には上述のいずれかの部位で連動の動きが正しく行われなくなっているので、これを順次正していきます。最初はその部位に必要な動き(伸展)を直接的に改善していくのですが、それでも不足な場合は、その部位一帯に伸展の動きを損なわせる何らかの要因があると考え、その原因を排除していきます。

 

 連動の部位が不足している部位についての直接的な改善は、まずその動きの善し悪しを先に説明した「運動中心」から判断していきます。これによって連動の動きの不足が「屈筋側の問題か」「伸筋側の問題か」を判断することが出来ます。別の言い方をすれば、連動の動きが損なわれている部位では、その運動中心にズレが生じていることになるので、これを正すことで機能を回復させていくのです。連動の回復は、それが正しく行われれば行われるほど、体が伸展方向に固定され、そこに一定の筋肉の緊張と交感神経の過剰な活動が生じてしまうのですが、ここではそれ以上に「体の安定」を重視します。最初は少々強い緊張が必要であっても、その姿勢の安定状態に慣れていくことで次第に不要な緊張が抜け、結果的には強い緊張を必要としない自然な立位に近づいていきます。