それぞれの施術

 

 支点の解除の使い分けは、患者さんの体の不調の原因が曖昧でいろんな要素が絡んでいるという場合なら「全身の筋肉の緊張を減弱させる」ことを優先とし、「特定部位の痛み」など問題が限局されているような場合なら「体の捻れや歪みを正す」ことを優先とします。この両者について、施術方法の具体的な違いは前者の場合なら「強い支点(大きな支点)」のみを施術の対象とし、これを順位消していく(追っていく)ことになります。ある支点をその解除によって体の他部位に移行させるということは、それまでの支点を中心に全身の緊張を構築していた体が、別の支点を中心として「新たな緊張バランスを再構成する」ということです。これはいわば「強制的に体のシステムを変更させる」ようなもので、これを繰り返すということは、それまでほぼ固定された状態にあった身体機能のバランス(愁訴・疾病が治らないということは体が悪いバランスで安定してしまっているということ)を消し去り、新しいバランスへと移行させつつ、身体諸機能の活性化を図ることに繋がっていきます。簡単には「止まっている体の諸機能を動かす」ための施術で、その過程でいろいろな体の問題も改善されやすくなるわけです。

 

 対して後者(体の捻れや歪みを正す)の場合では、局部の筋肉の張力を均一化し、その機能的を安定させつつ体を変えていくことを目的とするので、施術の対象となる支点は「強い支点」だけではありません。例えば最初の対象を「膝関節にある支点(もしくは膝関節そのものを支点とする)」とした場合、そこにある大きな支点を解除することで膝関節を支える筋群一帯の張力が均一化すればいいのですが、そうならない場合は膝関節一帯の中で「次に大きな支点」を消し、全体の張力が均一化するまでこれを行っていきます。対象とする局部について支点を「大→中→小」と追っていき、その張力が均一化して関節に適正な締まりが得られるまで続けていくのです。どんな関節でも周囲一帯で筋肉の張力が均一化すると、その時点で施術を受け付けなくなる「安定状態」となります。すると全身の中でその関節一帯だけが「正しい機能」を有することになるので、この時点で体はその関節一帯を中心に全身の機能バランスを再構成せざるを得なくなります。これは、その安定状態に「強い快感覚を伴う」ことで、体がその関節一帯の機能を自ら維持しようとし、結果的にその関節に全身の機能を合わせようとする反応です。

 

 どちらも体に「機能バランスの変更(再構成)」を強いることを目的とした施術です。前者の方法は一つの大きな支点を消し去ることで体が新たなバランスへ移行したとしても、それだけでは後で元に戻りやすいのですが、それを二段階・三段階と繰り返していくと体の変化が段階的に複雑化していくことで、体が元の「悪い機能バランス」に戻れないようになります(新しいバランスの中で各機能を安定させようとする)。後者の方法は局部を安定させるため前者の方法に比べて一つの部位に多くの時間がかかりますが、その局部の変化が全身へ強い強制力を持つため、術後の機能の安定を得やすくなります。多くの「体を変化させるための施術(テクニック)」というのは、それを扱う人によっては体を壊してしまいかねない危険性を有しますが、この「支点の解除」はどちらも「体にとって不要なものを消し去ることで変化させる」ことを目的としているので、比較的経験の浅い人が行っても危険性の少ない施術です。