支点の解除と詳細

 

 体が全身で強い緊張を維持するためには、先に説明した「三軸の関節操作」が大きく関与します。仮に筋肉が単体で強い緊張を行っても、それを長く持続することは出来ません。全身の筋肉が緊張できる上限は、関節構造の強度によって決まるもので、これは関節の遊びの大きさによって決まります。「三軸の関節操作」で説明したように、関節は三軸の動きをうまく組み合わせることでその遊びをなくし、強い緊張状態を簡単に維持することができるようになります(遊びの消失は全方向である必要はなく特定方向に限定の消失であればでよい)。この場合、関節は「土台」であり、その土台が固く安定していることで強い緊張を維持しやすくなるということです。これは私たちが固い地面の上でその力を発揮し、足場が不安定だと発揮できないことと同じです。これは全身の緊張を支えている「支点」も、そうした関節の仕組みに頼って極度に強い緊張を維持できているということになります。

 

 例えば筋肉はその繊維一本一本が、互いに体液の循環によって滑り合って動きます。この時に、繊維間に起こる摩擦は僅かなものですが、これが緊張によってその動きを制限された状態が持続すると、繊維間の体液が充分に循環できないことから互いの動きに強い抵抗が生じ、それが一定以上に強まると、互いが「へばりついた」ような状態となります。遊びのない関節周囲の筋群では、強い緊張が持続することからこうした問題が起こりやすくなり、簡単には弛むことのない「強固な支点」として成立しているものです(骨折や捻挫などの既往歴のある部位に多い)。これは筋繊維に限らず、筋肉を包む「膜組織(内臓でも同じ)」同士に生じる引き連れなども同じで、強い緊張の持続は、関節構造の仕組みとは別の無数の支点を作ることになります。支点は単独ではそれほど強い緊張を生み出すことは出来ませんが、それが二つ、三つと互いに結びつくことでより強い緊張を発揮できるようになります。実際には全身にある支点が結びつくことで全身の強い緊張、その維持を容易にしているわけですが、これは同時に緊張によって全身のバランスを安定させることにも繋がっています。

 

 これらを前提として「支点の解除」というのは、筋肉の緊張の緊張を弛める・減弱させるのではなく、その緊張に関わる「構造的な仕組みを変化させる(壊す)」ことで成立します。これは「関節の遊び」と「繊維観の摩擦」それぞれの変化で、関節なら遊びを消失させている三軸の動きのうち、一つでも崩してしまえば関節はその安定状態を維持できなくなるので、結果的に筋肉も強い緊張を維持することが出来なくなります(一時的には強い緊張を作り出せていずれ崩れてしまう)。また、先の繊維間の摩擦の増大から生じる小さな支点は、そこに繊維個々の動きを回復させることができればやはり消えてしまうものです。緊張が一時的に弛むだけでは解決しないこうした体の構造的変化という背景を持つ「支点」に対しては、その仕組みを変えることで「支点の解除」が成立することになるのです。