動けば壊れる体

 

 私たち人間の体はそもそも「壊れやすい構造」をしています。それは簡単に言えば「動けば壊れる」という当たり前の仕組みです。これについては解剖発生学の「三木成夫先生」の考え方に倣って説明していきます。三木先生は私たちの体を「内臓系」と「体壁系(運動器および脳)」の二つに区分し、それぞれを「植物器官」「動物器官」としています。植物というのは「独立栄養生物」といわれますが、その場にいながら栄養を取り入れることのできる、いわば「動く必要のない生物」です。これに「動くための機構(移動能=運動器)」が追加されたものが私たち動物となるわけです。しかし、この「動く」ということは多大なエネルギーを消費します。ここでは単純に植物に「移動能」が追加された状態を考えて貰えばいいのですが、それまで「動かないこと」でその生命活動を充実させていた生物が、動くことによって多大なエネルギーを消費する。この動くためのエネルギーは「生命活動」から拝借することになるので、動いている間は本来の生命活動が低下し、かつ動くことによる疲労というダメージも蓄積します。つまり私たちの体は「動く」ということだけで、本来の生命活動が損なわれるという仕組みを持っていることになります(動くことで活性化する仕組みもありますがそれは後述します)。

 

 ついでに言えば、私たち哺乳類の「口(鼻)から吸って口から吐く」というガス交換の方式はひどく効率の悪いものです。昆虫があれだけの運動量を維持できるのは、全身にある「気門」から酸素を取り入れているためで、これに比べれば「口から取り入れた酸素を全身の隅々に送る」という哺乳類のガス交換には限度があります。この方式で「常に動き続けても酸素が欠乏しないサイズ」というのは「ネズミ」が最大なのだそうです。つまり私たちの体は「動き続ける」ことができるようには作られていない。これを証明するように、野生動物では小型の哺乳類は忙しく動き回るものの、大型ともなれば「補食」と「生殖」以外にはほとんど動くことはありません。ただひたすら体をやすめ、無駄な体力(と酸素)の消耗を防いでいます(対して活発に動き続ける昆虫などは非常に優れた換気システムを備えています)。人間だけが「必要もないのに動き(考え)続ける」のです。その結果として、慢性的な酸素不足という問題を抱えることになります。そして、こうした生活を可能にしているのが自律神経、「交感神経」の働きです。

 

 一般的に交感神経というのは私たちの日常生活(活動)に必須の働きで、昼間は交感神経が働き、夜は回復のために副交感神経が働くと考えられています。これは昼間の交感神経の働きによって私たちは「元気に動くことができる」とする考え方で、仮にこれを「交感神経肯定論」とします。では「交感神経否定論」ですが、野生動物(ここでは立場の強い肉食動物とします)は昼間でものんびりと動きます。彼らの体で交感神経が明確に活性化するのは「補食・生殖」といった時くらいで、それ以外は可能な限り「交感神経」の働きを抑えた活動となっています。そもそも「交感神経の活性化=元気」というのは少々乱暴な話です。血液の循環でいえば交感神経の活性化が招くのは、あくまで「主要な血管の循環促進」であり、これには「毛細血管の収縮=循環の低下」という条件がつきます。これはつまり、元気に動けば動くほど毛細血管レベルでのダメージが蓄積していくということです(末梢の組織で酸素が欠乏する)。一般的な「運動=代謝がよくなる」という考え方は誤りで、本当に代謝がよくなる動きというのは「交感神経の働きを抑え、相対的に副交感神経の働きが活性化した中で行われる動き」となります。これが肉食動物の「のんびりした動き」に相当します(人間なら「太極拳」などの緩やかな動きでも同じことがいえます)。しかしこれを日常的に実践できている人はまずいないので、ほとんどの人は「動くことで体を壊している」となるのです。