体を繊維構造と見る

 

 体というのは「繊維構造」でできています。繊維構造である以上、どんな組織にも「繊維の方向(力の流れる方向)」があり、その繊維の間には「繊維の隙間(力が浸透しやすい隙間)」が存在します(実質的な隙間はなくても力の流れる隙間は存在する)。その繊維間には必ず「隙間」があると考えます。全ての施術はその「繊維の方向」を基準にして行われ、かつ「繊維の隙間」を利用することでその効果を高めます。とはいえ、こうしたことは後々になって実感するいわば「上級者の感覚」であり、基本の段階でそこまで理解する必要はないと思います。基本の段階ではあくまで施術の主対象である「筋肉」について、その「繊維の方向」と「繊維の隙間」を感じられれば充分だと思います。

 

 体というのは皮膚や脂肪で覆われているために「本来ある隙間」というのが分かりにくくなっていますが、実際にそうした「隙間」に焦点を合わせてみると、驚くほど簡単にその深部を触れることが出来るものです。ただしそうした「隙間」も、そこにある組織の繊維の方向に沿って「無理なく施術を行う」ことで初めて深部まで達することができます。私たちの施術というのは「体の表面からの刺激」に限定されるため、そこで得られる変化にも限りがあると思われがちですが、こうした「隙間」を利用することで体の深部へと直接変化を与えていくことも出来ます。ただ実際の体ではそうした隙間が緊張によって「塞がっている(と感じられる」ことが多いため、なかなかその隙間の有効性に気付くことができないものです。

 

 単純にいえば「骨と筋肉」の間には必ず隙間がありますし、「筋肉と筋肉(筋繊維と筋繊維)」の間にも隙間があります。その隙間を縫って入ることで一段階深部の組織を直接触れることができますし、またその深部から更にもう一段階深部の組織を扱うこともできるわけです(力で無理に入るのではなく「隙間に入れて貰う」という感覚)。体の隙間を扱えるようになるということには、こうした深部への施術を可能とする以外にも、本来あるべき正しい隙間が正しくあるか否かという意味で施術の対象となります。体における全ての隙間というのは、体が自然に動くための「遊び(力を逃がす余地)」です。こうした「正常な隙間」が失われていること自体が体の正常な動きを損なう要因となるわけで、通常の施術の中ではなかなか気付くことのできない「潜在的な機能不全」であると言えます。

 

 こうした隙間の感覚に慣れてくると、体のいろいろな組織に対して、その繊維の方向に合わせた施術を行えるようになるのだと思います。内臓の各臓器にも骨組織にも「繊維の方向」があり、その方向を意識して扱うだけでさまざまな反応が得やすくなります。体に生じる全ての力は、そうした「繊維の方向」にそって全身に伝わるわけで、それを理解して体を扱うことが施術の効率を高めてくれるのだと思います。これは体を単純な「固体」と捉えるのではなく、植物のような「繊維の集合体」と捉えていく見方だといえます。体は繊維の方向性を活かして使う限り「強い構造体」であることが可能なわけで、その感覚を失い「ただの固体」となってしまえばただの「脆い構造体」に成り下がってしまいます。だからこそ、それを扱う施術者の感覚の中に「繊維単位で体を見る」という感覚があるか否かが重要となります。