力の収束・拡散

 

 押圧による刺激は直接法・間接法に限らず、それが体に触れた部位からどういう範囲へ伝達するかを制御していきます。これは力を小さい範囲に束ねる「収束」と、広範囲に広げていく「拡散」です。ここでは分かりやすく収束を手指による押圧、拡散を手掌による押圧としておきますが、収束なら全身から発した力を指尖で二〜三ミリ大の大きさにまでに収束しさせます。この二〜三ミリ大という大きさは、押圧時に収束させた力が安定してブレないための範囲であり、この範囲まで集約させた力は施術で劇的な効果を発揮します。しかしこれが仮に五ミリ程度では、収束させた力が安定しにくくなり効果も期待できなくなります。

 

 これには「力の静止」という考えが重要なのですが、力を一点に収束させた場合に、その範囲を二〜三ミリ大に収束させておくと、その刺激は受け手にも術者にも「一点の同じところを押されている感覚」となります。しかしこの範囲が五ミリなどに広がってしまうと、その範囲の中で力の中心に大きなブレが生じることになり、結果的に受け手にも術者にも「力がブレるたびに異なるところを押されている感覚」となります。この違いはそれほど大きな問題ではないように感じるかもしれませんが、その刺激を受け取る「脳」の側にしてみれば「安定した刺激(それに対して安定して反応できる刺激)」であるか「不安定な刺激(それに対してうまく反応することができない刺激)」であるかという大きな違いとなります。前者の刺激は施術の内容以前に「行う度に脳や体を安定させる刺激」となりますが、後者の刺激は逆に「行う度に脳や体を不安定にさせる刺激」として作用してしまいます。

 

 これに対して力の拡散は、その力が必ず「均一な拡散」であることが条件です。手技の力を広範囲に広げるにしても、それが無軌道に「広がりやすい方へと広がる」のでは意味がありません。そのため拡散を行う場合には、まず手掌に「適度な大きさのボールを持つイメージ」を持ち、そのボールの中に力が均等に拡散・充満するようにします。そしてこのボールの大きさを調整していくことで、どんな大きさに対しても均等に力を拡散させることができるようにしていきます。実際の施術の場合は、このようにボールという球形で力の及ぶ範囲を決める方法と、「下腿」など「下肢全体」などと実際の体の各部位に合わせて拡散する方法のどちらかを用いていきます(内臓なら対象臓器がその力の拡散範囲となります)。

 

 この「力の拡散」は主に体の内部へと力を伝える「浸透性の押圧」で行う感覚なので、体の表面に作用する「反発の押圧」では浸透の場合ほど効果はないのですが、反発でも一点圧ではなく拡散で行う場合には同じ感覚で行っていきます。力を一点に収束させる場合は体に突き刺さるような「直線」の力の形状となり、力を一定範囲に拡散させる場合は力が均一に拡散しやすい球形を用いるのです。