力の量と速度の加減

 

 施術を効果的に行うのは、用いる力の量を強くも弱くも自在に調整ができ、その速度(リズム)も自在に調整できるということが大きな意味を持ちます。しかしこれは簡単なことではありません。話は変わりますが、絵を描く時の基礎訓練に「グレースケール」というのがあります。これは白い画用紙に10個のマスを作り、両端をそれぞれ「白」「黒」とし、10段階のグラデーションを作っていく練習です。なぜこれを行うかと言えば、白から黒の間の濃淡を作るという時、殆どの人では「2〜3段階」しか作れないためです。これはどんなことにも共通で、例えば「歩くペース」を無段階で自在に調整できる人はまずいません(各ペースが安定していること)。せいぜい「早い」「ゆっくり」「その中間」「すごくゆっくり」と4段階に調整できる程度です。何かを無段階で自在に調整するというのは非常に難しい作業です。

 

 これが難しい理由は簡単で、人はあらゆる動きを「パターン」で覚えているからです。これは体の支点をどう使ってその動きを制御するかということでもあります。例えば前述の「歩くペース」なら、四種類のペースを安定して持続できたとしても、大抵の人ではそれぞれのペースで「体の動き方」も「使う筋肉」も全く異なってしまうものです。これは基本が「支点に頼った動き」であるため、速度に応じて「どの支点に頼って動くか」が違うために起こります。こうなると、そのバリエーションには限界があるわけで、その結果として無段階に変化させることはできなくなります(先の「グレースケール」は意識における支点=思い込みによって限られてしまう)。

 

 施術の話に戻りますが、仮に施術で「四種の力」「四種のリズム」を使い分けることができたとします。しかしそれが「支点に頼った動き」であれば、その四種ではどれも動き・使い方が異なっているということです。例えばある力で施術を行っていて、その力を変化させた場合、体を使う感覚そのものが変わってしまうことになるので、自分では「同じ感覚」の中で施術を行っているつもりでも、実際には切り替えた瞬間に感覚が変わってしまい、そこで見ているもの・感じているも変わってしまうことになります。理想は力であれリズムであれ、支点に頼らずに体を動かすことで、同じ動き、同じ筋肉となることです(常に同じ感覚の中で力の量やリズムを自在に変化させることができる)。

 

 先に説明した「全身を繋げて使う」や「全身を丸く使う」といった方法は、支点のない状態での動きを強制的に強いるということになるので、常に全身を均等に使わざるを得ません。その結果として逆に力の量やリズムによって「使い方を変える」ということができないのです。とはいえ、慣れないうちは早く動けば全身のバランスが崩れてしまうので、壊れないようにゆっくり動くしかできません。これが慣れてくると次第に早くも動けるようになり、最終的に日常動作並みの早さで動けるようになります。力の量なら、最初はバランスが崩れない範囲の「弱い力」しか使えないのが、慣れてくれば次第に強い力も使えるようになるということです。こうして全ての早さや力に段階的に慣れていくことは、結果的に体が「全ての早さと力の加減を経験的に覚える」ということになるので、結果的に無段階の調整が可能になるということです。