力を任意に制御する

 

 施術の中では施術者の力が受け手の体に伝達されるわけですが、その力が受け手の体に対してどう作用するかは施術者それぞれで違うものです。そして自分の行う施術が受け手の体に具体的にどう作用しているかはなかなか分かりにくいものです。もちろん施術者は、本人なりに「この部位にこう作用させよう」と意図して行うわけですが、実際に施術の力がその通りに伝達するとは限りません。意図したものより小さくしか伝達しないかもしれませんし、施術者の予想を越えた範囲に伝達しているかもしれません。理想はやはり施術の力(効果)が「施術者の意図した範囲にのみ収束する」ことであり、そうでない限りは「施術者の意図とそぐわない反応」を引き起こすことになってしまいます。

 

 ここでは単純に施術を「押圧」と限定しますが、ただ押圧を行うだけでも、その力が「どこまで浸透するか」「どの範囲まで広がるか」「体組織のどこに強く作用するか」など、さまざまな要素が関わってきます。仮に施術者自身は意図していなくても、その押圧による刺激が施術者の意図しない「体の重要な機能」に強く作用し、体の機能を不安定にしたり、無用な反応を招き体力を消耗させてしまうこともあります。こうしたことから、ここでは「施術者は必ず自身の用いる力を制御して使う」ということを施術の前提として考えていきます。これはまず、普通に施術を行った場合の「自身の力の伝達の仕方」を理解し、それを基準に自身の力の伝達し方を「広く・狭く」「浅く・深く」「速く・遅く」など、意図的に操作・制御していくということです。

 

 具体的にはある押圧を行う時に、事前に施術者の側で「押圧の力をこの範囲にのみ作用させる」と決めておき、その通りに力を伝達させていくこということです。もちろん体はモノではないので、そうした刺激に対して関係なく思える別の部位が反応をすることはありますが、それでも施術者側で力の伝達範囲やその性質について定めておくことは重要です。これらを定めつつ施術を行うことで、そこで起こる反応も予測がしやすくなりますし、意図とは異なる不要な反応を引き起こさずに済みます。また想定外の反応についても、施術者が施術の内容を厳密に定めていれば、それを再現することが可能ですし、そこから「なぜそうした反応が起こるか」を類推することもできます。

 

 施術というのはその目的を厳密に定めて行わない限り、感覚的な要素からその内容が毎回微妙に変わってしまうものです。それはそれで「その都度の最適な施術を行っている」と言うこともできますが、それは「不確定要素」に基づいて施術を行っているということであり、悪く言えば「偶発性に頼った施術」とも言えます。施術の力を厳密に制御することが必ずしも正しいとは言いませんが、制御できないよりは制御できた方がいいわけで、これは自身の体を制御することと同等以上に施術の効果を左右する要素なのだと思います。また、施術の力を厳密に制御するということは、その制御の仕方によって一見同じに見える施術の中に幾つものバリエーションを作ることができるということです。それは体の反応にさまざまな微調整を加えることができることにも繋がるので、その結果として施術で起こりがちな「無駄な反応」を省き、「最少最短の刺激で意図した反応を得る」ことへと繋がっていきます。