主要な施術のポイント

 

 施術の主対象は全身の緊張の中で中心的な役割を果たす「支点」ですが、この支点を全身の中で闇雲に探すよりはある程度の見当をつけておいた方が便利です。支点というのは筋肉の局部的な緊張ですが、それが安定して成立する背景には、その筋肉が関わる関節の遊びがないこと(筋肉全体が強く緊張しゃすい状態であること)や、筋肉を「繊維の集合体」と考えた場合に、本来は自由に動ける各繊維間の間で一定以上の「抵抗」があることなどがあります。そうなるとどんな筋肉の中にも「構造的に支点ができやすいポイント」が生まれるわけで、さらには各関節ごとで「どのポイントが支点となりやすいか」という差も現れてくることになります。あらかじめこうしたポイントを定めておけば、いちいち全身の筋肉を相手にする必要はなくなるので、施術の効率が向上することになります。

 

 支点になりやすいポイントというのは「筋肉の中で力が集中しやすい場所」ということです。まず筋肉を繊維単位で考えれば、負担が大きくなりやすいのはその中心と両端の繊維となります。次に繊維内で考えたなら、負担が大きいのはまず骨との付着部(起始部・停止部)、繊維の中心、筋肉と腱の境目となります。支点というのは条件さえ揃えばどこにでも成立するものですが、大抵は先により根源的な支点(多くの支点の起点となった緊張初期に生じた支点)の存在があり、その力を借りる形で成立しているものです(二次的な支点)。そうした「根源的な支点」というのは、外傷などの例外を除けば、そのほとんどがこうした「負担の大きな部位」に起こるものなので、そうした支点を消していくことで二次的な支点を消していく(または弱めていく)ことができます。

 

 ただ、これだけではまた全身で対象となる箇所が多いので、その対象を筋肉の動作ごとの種別で限定しておきます。筋肉はその関節の動きによって「屈曲・伸展」「側曲」「回旋」のどれに作動するものか分かれますが、ここでは「体の動きのほとんどは縦の動き(その応用)である」という考えから、側曲と回旋に関わる筋肉は基本的に対象外とします。残る屈曲・伸展についてはそれを「屈筋・伸筋」に置き換えるとして、施術の主対象は「屈筋」としておきます(伸筋より強い力を発揮できるため)。ただし屈筋と伸筋は拮抗によるバランスの関係にあるので、実際に強い効果を得やすいのは「伸筋」の側です。これは屈筋より強い緊張ができない上で、伸筋の反応は必ず屈筋に反映されるためですが、これを主対象としない理由は部位によって「刺激が適さないため」です。伸筋は屈筋に比べてその反応が繊細で、部位によっては僅かな刺激でも傷めてしまいかねません。そのため主対象は屈筋とし、補助的に伸筋を扱うことに留めておきます。

 

 全身の緊張にとって重要な役割を担う支点の解除は、正しく行えばそこには必ず「姿勢の変化」や「動きの変化」を伴うものです。これは支点の解除によって体がそれまで制限されていた動きから解放されるということです。こうした変化を先に先に説明した「保護姿位」や「連動」と組み合わせて考えれば、体の機能を正すために「どういう動きが必要になるか(どの支点を解除すればその動きを実現できるか)」が決まるわけで、その動きによって解除すべき支点(のだいたいの場所)も決まることになります。これは言い換えれば「支点の解除の仕方によって姿勢や体の動きはある程度自在に変化させることができる」ということで、そのためにはどの支点を消すとどういう姿勢変化や動きの変化が起こるかを熟知している必要があるということです。つまり「支点の役割と意味」を経験的に知ることで、姿勢や体の動きを自在にコントロールできるということこそが、支点を扱う施術の出発点になるということです。