体を持つ手

 

 体の触れ方についてはよく言われることですが、持ち方についてはあまり気にすることがないように思います。施術で患者さんの足や手を持つことは多くありますが、この時も「触れる」と同じで施術者の持ち方次第で簡単に体は壊れてしまいます。これにはいろいろな要素があるのですが、ここでは「手部の各パーツの分離」について説明します。まず私たちの手には「五本の指」があるわけですが、全部を使って人の体の手でも足でも持ってみて下さい。この時、受け手の人に呼吸が楽にできるかどうかを確認すると、多くの場合は「呼吸がしにくい」となると思います。かといって「変わらない」というのが正しいわけでもありません。そもそも施術者が人の体に触れるということは、それ自体がプラスに働かなければいけないので、ここでは「呼吸が楽になる」が正しい持ち方です。

 

 そうした持ち方の方法としては、まず五本の指全てで力の入り方を均等にしておきます。そして指先と手首、つまり遠位と近位でも力の入り方を均等にし、手部の全域で力の入り方を均等に揃えておきます。これで手部については力の偏りがなくなります。これに前腕部までを加えて「肘から先の全域」で力の入り方や動きを均等にし、そのままの感覚で手足を持てば、恐らくは「呼吸がしにくい」ということはなくなると思います。ただ、これだけでは施術者の感覚による「主観的な均一さ」なので不十分です。次に肘から先の手部に関わる全ての関節で、その裂劇を均等に開くように意識してみます。これは動きで全ての関節を意識するでも構いません。私たちの体は「動きの得意な関節(敏感)」「動きな苦手な関節(鈍感)」が混在しているもので、手先や足先など細かな関節が密集している部位では、本人が自覚できないところで動作の偏りが生じているものです。理想は全ての関節が均等に動く中で「体を持つ」ことなので、全ての関節を均等に意識し、その動きをも均等に制御することができると「呼吸がしやすい」という持ち方に繋がります(これを全身で均等に意識する)。

 

 ただ、これは「持つ」という最初の動作に限った話で、それを「持ち上げる」となれば飛躍的に難しい作業となります。これは手首を持って上肢全体を持ち上げるとすれば、その軌道が肘関節や肩関節に違和感を与えないよう注意する必要があるためです。そのあげ方に僅かでも不自然な動きが加われば、途端に「呼吸がしにくい」となってしまいます。これについては施術者自身の体(特に上肢に関わる関節)に弛緩に伴う「遊びの余裕」を設け、持ち上げる際の僅かな軌道のブレや捻れを、施術者の体の側で吸収できるようにしておく必要があります。一言でいえば「柔らかい持ち方」であり、固い受け手の体の動きを柔らかい施術者の体の動きで受け止めるようなものです。寝ている患者さんの手首を持ち「肘を曲げる」という単純な動作でも、これを正しく行える人は多くはないと思います。

 

こうしたことはもちろん手先だけの問題ではなく、全身の状態が大きく作用します。全身のどこかに明確な支点を作ってしまうと、その支点が手の動きに干渉をしてしまうので、結果的に呼吸は楽ではなくなります。また体に「下半身の安定」が不足していると、その不安定性が手に伝わり同じことになってしまいます。全身に相応のバランスの良さがあることを前提としての「手の使い方」だと捉えておいて下さい。