按法八療 2

 

 手技療法にとって「手」とは道具です。機械の修理にいろんな道具が必要であり、道具が多ければ多いほどより難しい作業が可能になると同じように、手の使い方も多くを備えていればいるほど難しい作業が可能となります。手の扱いというと、多くの場合が「触れる方」などの感覚的要素を重要としますが、ここではそれらに加えて、単純に手指の形とその力の伝達に拘っていきます。

 

 先に按法八療とは「ジャンケンのようなもの」と説明しました。「包み込む=面」「刺す=尖」「切る=側」のそれぞれは、その形に沿って手指の力が変質すべきものなので、その性質と精度を訓練によって鍛えていきます。例えば「尖=刺す」という手技は「真っすぐに刺す」ことを前提とします。そしてこの真っすぐさが重要なのですが、指先で「真っすぐ押しているつもり」と、その指が何メートルもある棒の末端であるとイメージし、その棒が全くブレずに「真っすぐ刺さる」というのでは意味(精度)が大きく違います。誰しも「真っすぐ押しているつもり」でも、そこに僅かなブレは生じるものです。これを真っすぐな棒の末端と意識することで、僅かなブレも敏感に感知することが出来、結果として体に対して強制力の強い「安定した刺激」を加えることができることになります。また、この棒を仮に「2mmの円筒」と厳密に定めていくと、刺激を加える域(範囲)にも変化が出ないので、その刺激の強制力はさらに増します。大きさと方向、これらの精度を上げるだけで、単純な「体を押す」という手技の効果は飛躍的に向上します。

 

 これが「切る=側」なら、仮に用いる部位を手刀(小指側の側面)とした場合は、これを「刃物」と捉えると、その刃の細さが重要となります。その性質が「刃」である以上、その力は最低でも1mmの細さに収束させなければいけませんし、その長さ・形も相応の大きさで安定させる必要があります。またこの刃も「彫刻刀」のように、いろいろな切り方が出来るようにその形を自在に変え、かつ硬化できるようにしておく必要があります(大きな彫刻刀のようないろいろな包丁といったイメージ)。側の用途は「体組織の隙間」に自在に力を加えることにあるので、対象に合った手指の形を作ることで、体の深部に任意の刺激を加えることが可能になります。

 

 残る「包む=面」については、その「包む範囲」をどこまで広げることができるかが重要となります。これが掌なら、掌の大きさから少なくとも30cm程度は広げることが出来ないと使い物になりません(最終的には全身を包めるようにする)。また、これはただ包む範囲を広げればいいというわけではなく、その範囲ないに及ぶ力を中心から末端まで全て均一な状態で維持する必要があります。この「包んでいる範囲」では均等な力によって組織一帯が保持されることになるので、その一帯に生じている機能的な偏りは、それまでの不均一な状態から徐々に均一な状態へ変化していきます。もちろん尖や側より手指の力を拡散させているので、一カ所ごとに及ぶ力は弱く、強制力も弱いのですが、広範囲の機能を安定させることが出来ます。