関節の運動中心

 

 関節機能の善し悪しの判別にはいろいろな要素があるのですが、ここでは「運動中心」という考え方を重視していきます。これはどんな関節でも、それが正しく機能している限り、三軸全ての動きはある一点を中心に動くというものです。これは言葉よりも実践した方が分かりやすいのですが、いろんな人の手首を掴んで手をクルクルと回して貰うと、手関節(主に手根骨)の動きに大きなブレが生じる人と、ほとんどブレが生じない人がいることが分かります。当然ブレていない方がより正しく機能しているわけで、そうした人ではその関節が「その機能的中心から自然に動いている」ということになります。運動中心が大きくブレるということは、関節を支える周囲の筋群に緊張や収縮運動の不均衡があるということ、または三つ以上の骨から構成される関節である場合は、それぞれの関節の動きが正しく協調されていないことなどが考えられます(実際にはその関節より遠い部位での問題が干渉していることが多いのですがここでは除外します)。

 

 関節の運動中心を見定める方法は簡単で、先のように前と後ろの双方から触れ、動いて貰えばその中心がどこにあり、どの程度のブレが生じるかも分かります。関節は本来、その骨構造から中心となるべき部位が決まっており、これが「構造的な中心(運動中心)」となるわけですが、実際はさまざまな問題からこの中心位置がズレてしまっているのが普通です。そもそもが誤った運動中心に動いているのですが、その一点を基準に正しく動くことは出来ず、結果としてそこに動きごとの大きなブレが生じるわけです(誤った運動中心では全方向に均等に動くことができないので動きに応じてその位置を変化せざるを得ない)。ただ、手首や足首程度の大きさの関節であれば、その動きを簡単に把握することができるのですが、大きな関節になるとその全方向の動きを把握することが難しくなるので、そうした場合は先の「体の縦の動き」に習い、屈曲・伸展の動きのみでその正否を判断します(これが崩れていると側曲・回旋も崩れている)。

 

 屈曲・伸展の動きは屈筋・伸筋双方の均一な収縮と伸張によって正しく行われます(正しい運動中心で動く)。仮に屈筋側に過剰な収縮や伸張不全がある場合、屈曲・伸展の動作は屈筋側での動きが乏しいことから伸筋側の大きな動きに頼らざるを得なくなります(この場合は運動中心が屈筋側に移動することになる)。屈曲・伸展の動きの異常は、運動中心がどちら側に偏っているかによって、それが「縮む側の異常」なのか「伸びる側の異常」なのかを判別することが出来ます。この運動中心の考え方は、骨で構成される関節以外にも適用できます。例えば腰部であれば、腰部というのは「腹部臓器の圧力」と「支持組織としての脊椎」の双方によってその動きが構築されます。これが前面と後面を触れながら動きを感じた時に、運動中心が腹部側に偏っているように感じられれば、それは腹部の影響力(干渉)が強いための異常であり、背部側に偏っていればその機能を脊椎に頼り過ぎていると判断することができます。