体の縦の動き 4

 

 これまでの説明では、体が生まれ持った構造として「左に捻れる」という欠点を抱えているということになります。しかし、この全身に生じやすい左回旋の動きは、植物が成長過程で上へと伸びていく時の螺旋の動きと同じで、体が重力に対して抵抗するための効率よい仕組みでもあります。自然界では回旋の要素を持たない「ただの真っすぐ」という構造は脆いため、そこに回旋の力を有することで構造体は強い強度を得ることができるのです。体の左回旋については、誰しも自転車でカーブを曲がる時に右よりも左の方が曲がりやすいことで実感できますし、競技場のトラックが一律に左回りであることも同じ理由です。

 

 体がその内部に左回旋の捻れを有していること自体は問題ではありません(左回旋の力が内在しているだけでそれが実際の姿勢変化や歪みに繋がらなければよい)。しかしそれが一定以上に強まると、体を実際に捻る力となり、その結果として「補正」の右回旋の動きが必要となってしまうこと。ここに問題が生じます。体に僅かな左右回旋が生じている程度であれば、体はその中で「全身の連繋」を保つことができます。そして連繋が保たれている間は、体の「縦の動き」も正しく維持しやすい状態にあるといえます。しかしそれが一定以上に大きくなってしまうと連繋は途切れてしまい、体を縦の動きで正しく使うということができなくなります(「体を正面で使う」という感覚も損なわれてしまう)。

 

 連動による「体の縦の動きの連繋」は、体の各部がバラバラに動かないための抑止力となっているものですが、これがいったん失われてしまうと、体はその各部位ごとに「力み」に頼った動きを行うようになり、途端に全身のさまざまな連繋が損なわれ始めます。こうした状態で体を使うことが長期化すると、主要部位の左回旋が強まると同時に、その補正としての右回旋も強まり、「縦の動き」よりも「横の動き」に特化した体が出来上がってしまいます。こうなると、本来は「縦の動き」を強め、左右の機能を統合させる効果を持つ「歩く」という動作も、ただ体を捻ることで行う無駄の多い動作になりやすく、体を整える作用を失ってしまいます(ただし長時間の徒歩であれば徐々にその動きが「縦の動き」に矯正されやすい)。

 

 実際に現代人の多くは、こうした体の捻れを有している人が多く、そのため全身が連繋しにくい状態にあるといえます。「横の動き」に特化してしまっている体を、本来の「縦の動き」に戻すことは容易ではなく、連動によって「縦に動く感覚」を強く植え付けることは施術において重要な意味を持ちます。成長期によく歩いたり走ったりすることで「縦に動く感覚」が鍛えられている人は、体に「軸感」という意識が強いため、比較的施術による回復も早いのですが、成長期にそういう機会がなく、体の「軸感」そのものが希薄な人が相手では、なかなか「縦の動き」を植え付けることも難しいので、施術では注意が必要となります。

 

 これは余談となりますが、足首の骨折や捻挫などで、その機能にリハビリが必要になった場合、まずは屈曲・伸展の縦の動きのみを充分に回復させ、次に単純な動作である側屈の機能を、最後に最も複雑な回旋の機能を回復させると効率がよくなります(回旋は縦の動きと横の動きを複合した動き)。縦の機能を充分に回復させない状態で側屈や回旋などの機能を高めてしまうと、可動範囲は回復するものの、そこに「本来の力強さ」が伴わなくなり、結果として「弱い足首」にしてしまいかねません。大和整體の施術では、どんな動きの障害であってもまずは「縦の動きがどの程度損なわれているか」を重要視し、その回復に合わせて他の動きを扱っていくことになります(愁訴や機能制限の内容に関わらず)。