体の縦の動き 1

 

 体の動きは「縦(屈曲・伸展)/横(外転・内転)/回転(外旋・内旋)」という三軸から成り立っていますが、連動による一連の体の動きは屈曲・伸展の「縦の動き」を強めることに繋がっています。私たちの体は三軸のどの方向へも体をある程度は自由に動かすことができますが、これに優位順(機能的重要性の順)を設けるとすれば、それは「屈曲・伸展→外転・内転→外旋→内旋」、つまり「縦→横→回転」となります。体にとって「縦の動き」は最も重要で、これが正しく行われれば、他の横・回旋といった動きも正しく行われます。

 

 これは全身に着いている筋肉の働きを見れば分かることですが、運動器の筋肉というのはそのほとんどが「屈曲・伸展」の縦に動きに関わっており、これに対して「側屈」や「回旋」に関わる筋肉は非常に僅かしかありません。これは全ての動きが「縦の動き」を中心として起こるという意味であり、側屈や回旋の動きは本来、「縦の動きの変形」から生まれる動きです。

 

 例えば体幹の側屈なら、これは屈曲・伸展に働く筋群の左右どちらかの収縮で行うことができます。回旋もこうした収縮運動の微調整である程度行うことが可能です。側屈や回旋といった動きは、その動きの中に「力」と「質」を区分する必要があるのですが、側屈や回旋に働く筋肉(その総量)を思えば、そうした筋肉に強い力を期待することはできません。しかし屈曲・伸展に働く筋群の調整によってそうした動きを行うのであれば、それは強い力に支えられつつ行うことができます。しかし、そうした動きだけでは微調整が効きにくいため、これをリードする役割として側屈や回旋に働く筋群が存在すると考えるのです。こうした考え方では、側屈や回旋に関する動きの異常であっても、まずは屈曲・伸展の縦の動きを正すことが優先となります。

 

 そもそも私たちの体は、正面でのみ本来の機能を発揮するようにできています。この正面の基準となるのは「臍」であり、臍の向き=体の正面となります。この正面で何かを行う限りは体は本来の機能を発揮しやすく、ここから外れて使おうとすれば途端にその力を失います(体の芯に力が入らなくなる)。武術などでは「体の向き=臍の向き」は当然であり、その向きを変えるために重要となるのが「膝の向き」としてよく知られています。これは体幹から頭部が真っすぐな「正面」を保ち、向きを変える動きは下肢のみで行うというものですが、熟達者ほどこの仕組みを重視します(余談ですが、武術での「袴」の役割は、膝を隠すことで次の動作を悟られないために用いられます)。

 

 縦の動きというのは「体を真っすぐ使う」ということと同じです。これが昔なら、移動手段が徒歩主体であったため、歩くということが日常の動きのほとんどを占めていました。これは「体を縦に使う時間が長い」ということで、縦に関する筋肉群がよく鍛えられます。縦に動く筋肉さえしっかりと鍛えられていたなら、そこから側屈や回旋の動作を行ったとしても、それは強い縦の筋群に支えられながらの動きとなるので安定しやすいものです。しかし現在の私たちの生活動作は、徒歩による長距離移動がなくなり、縦で使うことが減った代わりに「捻り」が多くなっています(狭い空間の中でこまごまと体を動かす)。縦の筋肉の働きが弱まった状態で側屈や回旋の動きを多用すれば、体が痛みやすくなるのも当然のことです。