動きの序列 2

 

 体の動きの序列については「大きなパーツ」が最初に動き、それに「小さいパーツ」が順次従っていくというのが基本の考えとします。大きなパーツとは主に「骨盤部」「胸郭」で、骨盤部は下半身の動きの起点、胸郭は上半身の動きの起点とそれぞれ考えます。この「大きなパーツ」が体を動かす時に、敏感かつ率先して動くことで、四肢の末端までがスムーズに動きやすくなります。そしてこの骨盤部と胸郭が柔軟に動くために必須となるのが、脊椎(仙椎・尾椎まで含む)の柔軟性です(とりあえずは脊椎を体の中心軸の代用品と考えて貰っても構いません)。ただし、この動きの序列というのはあくまで施術における便宜上の考え方で、施術で体の機能を整えていく過程で有用な考え方であるということです。

 

 例えば野球の投球動作の場合、その動きは踏み込んだ足を起点にまず骨盤部の位置が決まります(ここでは右利きとする)。この骨盤部が投球動作に対して敏感かつ率先して動くということは、骨盤部全体が後継する中で右腸骨は後傾・左腸骨は前傾となり、投げる準備段階の「溜め」の起点となります。この骨盤部の動きは脊椎を伸展方向と右側への回旋へと誘導するので、この動きに胸郭がやはり敏感に反応し、その動きを増幅させます(伸展と右回旋が強まる)。ここまでの動きが出来ていれば、右上肢は肩に過剰な負担をかけることなく自然に後方へと大きく引くことが出来ます。ここまでの動きが「溜め」で、実際の投げる動きはその為めを開放し、これまでの伸展と右回旋、その反対の屈曲と左回旋へと切り替えるだけで済みます。これなら全ての動きと力は骨盤部(厳密には足から)から指先へと自然な流れとして繋がっているので、どこか局部の関節や筋肉に過剰な負担がかかることはありません。これは全ての動作に於いても同じことで、この自然な動きの序列が崩れることで、局所の関節や筋肉に負担がかかると「痛み」などの愁訴に繋がります。

 

 ただ、実際には体のパーツというのはその大小に関わらず、全てが「等価」です。体の動きはそれが理想的なものとなると、パーツの大小に関係なく、その全てが「同時反応」で滑らかに動きます。しかし、現実的に私たちの体では「大きなパーツをうまく動かせないこと」が全身の自然な動きを損なう大きな要因になっているので、そのため、まずは「大きいパーツ」にしなやかな動きを取り戻し、より優先的に動けるだけの柔軟性を回復させる必要があるのです(そのための序列という考え方)。まずは「大きいパーツ」の中で失われている動き(苦手な動き)を見つけ出し、それを改善することで全身のスムーズな動きの連繋を順次回復させていきます。体のパーツの大小に関わらず、全身が均一かつしなやかに動くようになれば、最終的には全ての力の起点は地面と接する「足部」となります。全ての動作は、足部を起点にそれが全身に伝わっていくことで行われ、その時はやはり全身の全てのパーツは「等価」に動くことになります。

 

 こんな面倒なことをしなくても、施術によって全身のバランスを整えれば全身が均等に動くようになり、その場は正しい動きを行うことが出来るようになります。しかしその背景にあるのは、私たちの日常動作では体幹部の繊細な動きが訓練されず、末端の四肢ばかりが訓練されてしまう「訓練度の差異(使用頻度の差異)」なので、この体幹の機能を高めることでそうした差異そのものをなくそうとするのが「術式の序列」の考え方です。