保護姿位

 

 人の体が緊張する時、その緊張は必ずしも全身で均一に起こるわけではないので、全身での緊張の差はそのまま姿勢の変化や体の動きの変化となって現れます。こうした緊張が、その人独自の姿勢や体の動きを形作っているわけですが、そこにはある程度の規則性があります。その規則性の根幹をなすのが「緊張=身を守る」という感覚で、誰もが体を守ろうとする時にとる一連の姿勢です。大和整體ではこうした姿位を「保護姿位」としています。これは単純に考えて欲しいのですが、誰しも心身にマイナスの事象が起こると、無意識に背中を丸めて「身を守る姿勢」をとります。これは何かにビックリした時、悩みがある時、気分がすぐれない時、体に痛みがある時、体調がすぐれない時など共通で、人は心身に起こったマイナスの事象に対して、全身を竦め、顎を突き出したような体勢をとります。無意識に体の弱い部分(内臓など)を守ることで、防御の姿勢をとるということです。

 

 これはその仕組みから言えば、僅かな刺激にも敏感に緊張反応をしてしまう部位として、まず「横隔膜」や「大腰筋」が優先的に反応します。横隔膜の緊張は上肢や頸部(頭部)といった上半身全体の緊張に繋がり、大腰筋の緊張は下肢全体の緊張に繋がります。横隔膜の起始部(脊椎)と大腰筋の起始部はほぼ同じなので、この両者が緊張すると、結果として「全身の緊張」が成立することになります。個人的には「横隔膜と大腰筋」という対比よりは、より敏感に反応する組織として「横隔膜と骨盤隔膜」という方が好みなのですが、大腰筋と骨盤隔膜の反応はほぼ一致するので、どちらでも同じことです(横隔膜と大腰筋というのは運動器の緊張反応をよく表す対比で、横隔膜と骨盤隔膜というのは内臓系の緊張反応をよく表す対比です)。この両者の緊張は、ほんの僅かな心の動きや周囲からの刺激に対しても敏感に、かつ優先的に反応するので、人それぞれの緊張の仕方があるにせよ、すべての緊張の起点といえます。

 

 この緊張から起こる姿勢の変化は全て「身を守る」ための動きであり、体の動きを「開く」「閉じる」という対比で考えた場合は全て「閉じる」動きとなります。これを全身の各関節の動きに置き換えれば「屈曲・伸展」では屈曲、「外転・内転」では内転、「内旋・外旋」では内旋方向の動きとなります。まず簡単な例としては、下肢なら膝関節が屈曲し、次いで股関節も屈曲。この結果として骨盤全体が前傾することになり、脊椎全体も自然に屈曲に優位となります。あとはこれに従う形で肩関節・肘関節・手関節も全体的に屈曲優位となります。これに股を締める、脇を締めるといった内転の動きが加わり(保護姿位における内転の働きは重要です)、更には下肢全体、上肢全体に内旋の動きが加わることになります。言葉で描くとややこしいのですが、ここではこうした姿勢を単純に「具合が悪いときの猫背」といった程度に捉えておいて下さい。体が緊張で「縮こまって」しまい、背筋を伸ばしにくいという状態です。

 

 ただ、頸部・頭部については他と同じように屈曲で縮めてしまうと頭部を水平に保てなくなるので、唯一伸展の動きをとります(全身の全てが内方へと閉じてしまうと力の逃げるところがなくなってしまうため、頸部・頭部の動きには「力を逃がす」という意味もある)。こうした一連の動きがどこでどの程度起こるかによって、人それぞれの姿勢が異なることになるのですが、基本となっている動きは誰しも共通です。こうして起こる姿勢の変化=体の歪みを、ここで「一次的な体の歪み」としておきます。