体の支点 2

 

 支点が安定して緊張を維持できる仕組みは、いろいろと考えることができます。実際の支点は「筋肉の緊張」に限らず、関節の強直、組織間の癒着、内臓の引き連れ、火傷等による皮膚の引き連れなど、さまざまなものがありますが、ここでは全ての基本を「筋肉の緊張」に置き換えて考えます。これはどんな支点も、最初に筋肉の緊張による「動きの偏り」が起こらない限りは成立しえず、筋肉の緊張以外の支点は全て「二次的なもの」と考えるためです(ここでの筋肉には皮膚や血管を動かすような微細なものも含む)。仮に事故や手術などから癒着が起こり、それが支点となっている場合でも、体には少々の機能不全ならそれを周囲で補うだけの「余力」を持っているものなので、関連する筋肉が正常に機能してさえいれば補えると考えます。この場合は「癒着そのもの」を問題とは考えず、癒着に足並みを揃えて機能低下している周囲の筋肉に問題があると考えます。

 

 支点を「筋肉の緊張」とした場合、ただ筋肉が緊張するだけでは「支点」とはなり得ません。支点というのは「筋肉の緊張が長期的に安定した状態」です。仮に私たちが体のどこかを強く緊張させたとして、それを長時間、同じように維持し続けることはできません。支点がその緊張を維持するためには、相応の「仕組み」が必要となります。その最も基本的な仕組みは「関節の安定度」となりますが、関節を動かすために存在する筋肉は、自身の関係している関節の安定度に比例してのみ強く緊張することができます。これはある筋肉の緊張が、自身の関係する関節の構造を抜きに「過剰な緊張」を行えば、関節そのものが正常に機能しなくなってしまうためです。突発的なケガなどの例外を除いて、筋肉が緊張可能なのは「関節構造に支障を及ぼさない範囲(壊さない範囲)」に限られます。支点となる筋肉の緊張が強く、かつ安定して存在するためには、関節そのものの安定度を事前に変化させておく必要があります(これについては「三軸の関節操作」で詳細に述べます)。

 

 「関節を安定させる」ということを簡単に説明すると、それは「関節の遊び」を少なくするということです。関節の遊びは「完全屈曲」や「完全伸展」で少なくなると知られています。しかしそれほど大きな動作を伴わなくても関節の遊びを減らすことは可能で、それは関節の三軸の動き(屈曲・伸展/側曲/回旋)を少しずつ組み合わせることです。これによる「複雑な(かつ僅かな)捻り」によって、本来は遊びの多い筈の「中間位」でも関節の遊びを少なくすることができます。また、三軸の動きはうまく組み合わせると誰でも簡単に強い緊張を維持できる仕組みがあり(武術などで多用)、これによって簡単に緊張を持続できる仕組みが成立します。あとは、ある筋肉が一定の間、同じ強い緊張状態を維持することで筋繊維間の潤滑剤である「漿液」の流れが滞ると、筋肉内部で筋繊維間の抵抗が強まり、一部の筋繊維間に「癒着」のような状態ができあがります。こうして筋肉内にも構造的に安定した「支点」ができてしまうと、支点はさらにその安定度を強めます。

 

 支点=筋肉の局部的な緊張は、それ単体では強い力を維持することは難しいのですが、これは別の支点と結びつくとその力は相乗的に強固なものとなります。体に一つの強い支点ができれば、それだけで体の安定は崩れ、多くの機能的な偏りが生じることになるので支点は次々にできていきます。これらが高いに結びつくことで強固なネットワークを築くことで、体は僅かな労力で強い緊張を維持することができるようになります。緊張そのものは交感神経の働きから起こりますが、命令を受ける運動器の側にこうした構造ができてしまうと、これ自体が交感神経の過剰な働きを誘発する素因となってしまいます。