体の支点 1

 

 私たちは誰しも体を動かす時に「自分なりの癖」があるものです。仮に「一切の癖がない体」というものがあるとすれば、その体は全身が常に等しく動き、何を行うにしても「目的に対して最適な動き」を行うことになります。こうした体では動作の負担や疲労は全て全身へと均等に分散されることになります(どんな負担や疲労も全身に均等に分散されていれば大きな問題には繋がりにくい)。これに対して「癖を持つ動き」というのは、何を行うにしても「自分の癖」が優先するわけで、無駄が多い動きであると同時に、動作の負担に偏りが生じるため、故障などのトラブルが起こりやすくなります。こうした「癖」に伴う動きの偏りは、体のあちこちに「支点」が生じることで起こります。

 

 支点とは「動かない部位」です。誰しも全身の中に「動かしやすい部位」と「動かしにくい部位」の偏りがあるわけですが、ある部位が「動かしにくい部位」として安定してしまうと、体はその部位を固定する方が都合がよいと判断するものです。そもそも「動かしにくい部位」というのは他に比べて何らかの機能低下を起こしている部位であり、体にとってそうした部位を動かす作業は非常に負担の大きなものです。その負担が一定以上に達すると、逆に緊張によって固めることで「支点」とした方が、動作の負担が少なくなるのです。支点がない状態の体の動きを「流れるような動き」とすれば、ある部位を支点として固定することから起こる体の動きは「支点を起点とした動き」となり、それまでの滑らかさは失われるものの、明確な起点を持って動けることで「精密・正確な動作を行いやすい」する」という別の利点を持つことになります。

 

 とはいえ、体に一つ支点ができてしまえば、全身はその支点に影響を受けつつ動くことしかできないので、全身の動きに大きな偏りが生じることになります。この動作の偏りは、体の中で更なる「動かしやすい部位」と「動かしにくい部位」の差を大きくすることになるので、新たな支点が生まれやすくなります。実際の私たちの体はこうした機序によって成長過程で「無数の支点」を作ってしまっているものです。この支点も、それが身体機能に大きな影響を及ぼさない範囲のものであれば「個人の癖」として見過ごせるものとなりますが、支点に伴う緊張が著しく強い場合は、身体機能に大きな影響を及ぼし、それが愁訴・疾病へと繋がりやすくなります。この身体機能に大きな影響を及ぼすような支点については、施術によって解消すべき対象となります。

 

 この支点に伴う緊張というのは、他の一般的な筋肉の強い緊張とは違います。これは、支点が「その人の動作にとって必須の緊張」となっているためで、その人がその支点を必要としている以上は、いくら筋肉の緊張を解消してもすぐに元に戻ってしまうものです。支点というのはただ筋肉が強く緊張すれば成立するというものではありません。私たちが体のどこかを強く緊張させても、それを長く持続することができないのに、支点は常に安定して緊張を保つことができます。そこには「安定して緊張を保つための様々な仕組み」があるわけで、その仕組みを変化させることによって、支点としての緊張を安定して解消することができることになります。