足部の痛み

 

 膝の痛みと同じように足部に関する痛みや愁訴は多いものです。これについてはまず、足部というのものは「守るべきものか」「鍛えるべきものか」のいずれと考えるかで、その意味が大きく変わってきます。履物でいえば一般的な足部に対する考え方は、ヨーロッパ的な考えと同じで「守るべきもの」とされています。これはそもそも、ヨーロッパの主要な街道が固い「石畳」であったたために、そこを歩くためには「足を保護しなければならない」という理由から、靴についての技術が発展したことによります。そしてこの考え方は現代のアスファルトの道路にも活かされています。

 

 これに対して、日本古来の考え方というのは草鞋や足袋に代表されるように、「いかに足の機能を活かすか」ということに終始しています。私たちの体は足を起点に動くようできています。その起点は足趾であり、さらに言えば拇趾と示趾をその中心として動くことで正しく動くようにできています。これを体現したのが草鞋や足袋の「鼻緒」で、鼻緒があることで足部の力の起点が自然に定まり、そこから全身を正しく機能させることができるようになっています。

 

 一般的な靴の仕組みは「足をいかに保護するか」という観点から作られているので、そこに「足部の機能を活性化させる」という考えはあまりありません(アーチをいかに支えるかという程度)。こうした履物では足は保護されるものの、指先を起点に全身に力が入ることは期待できず、ただ足部を守るだけの道具となってしまいます。その結果として私たちの足部は、歩くことが少ないという以前に、その細部の機能を活かす機会がないという点でひどく衰えてしまっているものです。

 

 こうした状態にある足部では、そこに痛みが生じる要因は多々あります。そもそも拇趾と示趾を起点に力が入っていれば、体には足趾を起点に力が入り、その力が下腿、大腿、骨盤部(腹部)へと順に伝わっていくものです。これが下半身の安定に繋がり、体そのものの安定に繋がります。しかし足趾に力が入らない状態では、下半身に力が入らないため、逆に上位の体の捻れが下肢に伝わることから下肢に不要な捻れが生じやすくなります。この上位の捻れが下肢に伝わるのは、それが股関節、膝関節、足関節のいずれに影響するかで大きく変わります。

 

 下肢にある程度力が入っており、上位の捻れとぶつかるのがより上位の股関節であった場合は、股関節が臼関節という構造上、柔軟性があるためあまり大きな問題には繋がりません。しかしこれが膝関節に至ってしまうと、前述したように捻れに弱い膝関節は痛みやすくなります。一番の問題は足関節に至ってしまうことで、こうなると地面への接地そのものが「足首を捻る」動きとなってしまうので、足趾の踏ん張りがきかなくなり、下肢そのものに力が入らなくなってしまいます。

 

 

 足部は体の最下部で体を支える重要な部位ですが、この支えるということは、ただ全身の体重を受動的に受け止めるのではなく、逆に能動的に「持ち上げる」ことで成立するものです。足部が正しく機能し、体をしっかりと持ち上げることができれば、その時、足趾から腹部の下半身には力が充実し、簡単には壊れない状態となります。しかしこれが充分に持ち上げられないと、足部はただ体の重みに潰されながら体を支えるだけになってしまうので、足部が持っている優れた機能をほとんど使うことができなくなります。

 

 これまでにも説明しましたが、大和整體にとっての足関節の柔軟性とは、足趾から下腿部までの全体を柔軟にしならせることで得られるもので、それゆえに強い強度を保つことができます。これが「潰される」ことによって機能しなくなれば、足部を構成する多くの足根骨、指骨は体の歪みに負けてその位置関係が崩れてしまい、正しい機能を発揮できなくなります。これは骨の歪みという問題ではなく、その力関係の中で歪まざるを得ない状態にあるということです。足根骨で本来の位置関係が崩されてしまえば、足趾の機能は著しく低下し、足趾が本来行うべき「踏ん張る」という機能は失われてしまいます。

 

 ただ実際には現代人の多くの足部がこうした状態にあり、本来の機能を発揮できない状態にあります。いくらジョギングなどで足を鍛えてると言っても、足部が正常に機能しない状態で鍛えられるのは膝関節より上位の機能であり、足首の弱いランナーなど珍しくありません。こうした中で足部のうちの指部や足根部、距腿関節などに痛みが生じたとしても、それは「どこをより優先的に潰しているか」という話になるので、簡単に解決できる問題ではなくなっています(一時的には改善されやすいとしても)。

 

 足部は他の部位とは比較にならないほどの繊細かつ複雑な機能を持っています。これは「手が使えない人」が足を手のように器用に使いこなすのを見れば、誰しも潜在的にそうした機能を持っていることが分かります。しかし私たちの日常生活では、靴に守られた状態で、かつ舗装された平らな道を歩くだけで、これではそうした機能が活性化する機会がありません。その結果として足部の機能は衰え、その結果として足部を起点として働く全身の力も発揮できない状態となってます。手と同じまでとはいかなくても、足部で手に近いだけの機能を発揮することができれば、それだけで体全体の機能は著しく活性化し、それだけで多くの愁訴も解消ができるはずです。