膝の痛み

 

 膝関節はその構造から「捻り」に弱い関節です。よって膝に痛みが生じるということは、たいていの場合はそこに本来は不要な「捻りの動き」が加わっていると考えられます。大和整體では体の働きを膝関節を境にしてその下部と上部で動きが根本的に異なるとしていますが、膝に捻りが加わる状況というのは、この下部と上部の機能が噛み合っていないことから起こると考えます。

 

 膝関節の働きをここでは、まず膝関節より下部(下腿を含めた足部)がその働きによって脛骨側の関節面を常に安定した状態を用意し、そこに大腿骨側の関節面が「乗る」ことで成立するとします。例えば「地面の凸凹」があるとして、その凸凹の不安定な状態が膝の関節面(この場合は脛骨側の関節面)にまで反映されてしまえば、これは大腿骨より上位の体にとっては「乗りにくい膝」となります。下腿を含めた足部の役割は、単純な動きしかできない膝関節を補うべく、そうした接地に関わる問題を解消し、常に大腿骨より上位の体に「乗りやすい状態」を提供することにあります。これが地面の凸凹がひどく、足部の機能だけで対処ができない場合でも、その位置情報を明確に脳へと伝え、乗りにくい状態なら「どこがどう乗りにくいのか」、具体的な情報を提示することができれば大きな問題は生じません。下腿を含めた足部の役割は、その運動機能によって接地に関わる不安定さの問題を解消することと同時に、その情報を脳へと正確に伝えることにあります。

 

 最初に書いたように、膝関節は「捻り」に弱い関節です。しかし私たちの日常の動きは「些細な捻り」など日常茶飯時で、およそ捻りと無関係ではいられません。しかし、こうした捻りの動きがなるべく膝関節に伝わることなく動けるようにしなければなりません。そのために膝関節の両隣りには全方向への動きが可能な足関節と股関節が装備されています。この双方が動きの中での「捻り」の部分を担当してくれることで、膝関節には捻りの力がかかりにくいようになっています。しかし足関節と股関節のいずれかに問題が生じてしまうと、そこで吸収できなくなった捻りの動きは直接膝関節に伝わることになります。これが少々の捻りであれば「膝関節の遊び」の範囲内で補うことができるのですが、それが補うことのできる範囲を超えてしまえば容易に痛みへと変わります(平らな地面に立っているだけでも地面の質感の問題(滑る・滑らないなど)や僅かな足の付き方の不備によって捻りの力は簡単に生じてしまうものです)。

 

 捻りを担当する足関節と股関節について、より重要な働きをこなすのは地面と接する足関節です。これは本人が体を真っすぐに使っているつもりでも、地面の僅かな問題によってそこに捻りの要素が生まれるためです。捻りに繋がる動きは可能な限り下腿を含む足部の範囲で補い、それが膝関節に影響しないようにする必要があります。これに必要なのは下腿を含む足部全体の柔軟性と、その動きを正確に脳に伝える神経反応の緻密さです。足部がどのように地面の問題を修正して、脛骨の関節面がどういう位置、どういう角度にあるのか(関節の位置感覚)を正確に伝えることができなければ、大腿骨より上位の体はそこに安心して乗ることができません。この機能が充分でないというだけで、脛骨の関節面に対して大腿骨が加重した際には僅かな「ブレ」が生じることになります。敏感な膝関節はこの「ブレ」を嫌うため、それを感じた瞬間に「内側に捻る(内旋方向に締める)」ことで関節を安定させようとします(膝関節が自ら捻りの動きを作り出してしまう)。こうした理由から下腿を含む足部の機能が正常であるか否かは重要な問題となります。

 

 これに対してもう一方の捻りを担当する股関節は、他でも説明しているように、下半身に力の入らなくなった状態では腰や肩(股関節や肩関節)でバランスをとる作業を行わなければならないため、大部分の人ではその機能の大部分をそちらに使われてしまっています。こうした状態では捻りに敏感に反応してその動きを吸収することは叶いません。

 

 そもそも、体はそこに不要な緊張がなければ体は下半身を中心として安定します。こうした状態では下腿を含めた足部には理想的な加重がかかることになり、これにより細部の機能までが活性化します。これによってその柔軟性と関節の位置感覚を正確に脳へと伝える正常な神経反応が得られることになります。また同時に下半身が安定している状態では、腰や肩でバランスをとるような緊張は不要なので、股関節にも機能的な余裕が生まれることになります。これがいったん緊張によってその下半身の安定を失ってしまうと、下腿を含む足部は正常に機能せず、かつ股関節の機能的な余裕もなくなることから、膝関節には捻りの力が加わりやすくなります。

 

 実際には体の緊張には必ず「捻り」が伴い、それが増大すると無条件に膝関節に捻りの力が加わることや、膝関節の動きには胸郭や上肢の動きが密接に関わっており、そうした問題から捻りの動きが加わらざるをえないこと。または捻りとは関係ないところで(例えば内臓機能の影響として)膝関節の位置情報が不明瞭になることから膝関節への加重の際にブレが大きくなり、それを補うための自発的な強い捻りが生じることなど、膝が痛むにはいろいろな要素が関係しますが、まずはここで説明した内容を「膝の痛み」の基本的な背景と捉えているのです。