肩こり/頭痛

 

 肩こり/頭痛と一口に言っても、その愁訴の出かたは人それぞれで一括りにできるものではないのですが、ここでは「大まかな考え方」として説明していきます。どちらにも共通しやすいのが「緊張」による上半身の活動優位で、これは全身(手足や内臓)が緊張によって締まることで、その血液が上半身に集中しやすい状態です。私たちの日常では「考える(頭を使う)」という時間は非常に多いものですが、この時は当然ながら頭部に血液を集中させる必要があります。この局部的な血流の増大を可能にするのは心臓ではなく、全身の血管によるポンプ運動です。「考える→緊張→交感神経の活動亢進」という一連の働きは、全身の筋肉・血管に対して僅かですが「締まれ」という命令を出します。これで末梢(手足)や内臓の筋肉が締まり、その結果として血管(主に毛細血管)も締まると、絞り出された血液は体の上位(頭部)へと集中しやすくなります。これは首の長い「キリン」が血圧を高めることで脳へと血液を供給している仕組みと同じで、血圧を高めるためには全身を相応に緊張させる必要があります。思考が日常化している私たちの生活は、交感神経の活動に頼って常に全身を緊張させることで成立しています。

 

 この全身が緊張で締まるという状態は、体の下位から上位へと絞り上げるような形の緊張となっているので、上半身に血液や圧力が集中することになります。つまり「上虚下実」とは逆の状態です。これでは上位にある心臓と脳は常に強い圧力下に晒されるので、これだけで上半身は常に「辛くなりやすい状態」となるのですが、同時に交感神経の強い働きによって感覚が低下しているので、それを感じにくい状態でもあります。しかしこれだけで充分に肩こりや頭痛が起こりやすい背景は成立していることになります。これを解消するためには逆の「上虚下実」に戻せばいいわけですが、それには思考を停止する(頭の中を空にする)ことで全身の緊張を解くということが必須であり、それが現代人にはなかなかできなくなっています。

 この「上虚下実」と逆の状態にある体では、上半身の機能が強まる反面、下半身の機能は低下します。下半身の機能が低下するということは、立っている足に「力が入らない」ということです。力が入らない状態で日常生活を行わなければならない下肢の選択肢は「緊張によって固めること」で、これは下肢を緊張によって「棒」のように固めることで体を支えるというものです。この場合、下肢に関する機能は著しく制限されてしまうので、下肢の本来の役割である「地面を掴んで体を支える」ということができなくなります。下肢はただの「つっかえ棒」でしかなく、立っている時のバランスは下肢が担当するのではなく、腰や肩(自由度の高い股関節や肩関節の動き)によって補われることになります。つまり立って動いている限りは常に腰や肩の一帯を緊張させていなければならないので、腰痛や肩こりが生じやすくなります。こうした状態がひどくなればなるほど、自由度の高い肩関節の負担は大きくなり、肩こりは強くなります。これは足場の悪い岩場などを歩いている時に、足で踏ん張りがきかなくなるため、上半身でバランスをとろうと緊張する時の仕草と同じです。

 

 

 緊張によって頭部に血液が集中するという状態は、重力に逆らって血液を「下→上」へと送り続けていることになるので不自然な状態です。これだけなら何かの拍子に血液が「上→下」へと自然な流れに戻ってもよさそうなものなのですが、そうならないように維持している仕組みが上肢の緊張(後で肩の痛みで説明する手部の緊張)と、顎関節の緊張です。ここでは顎関節の緊張を優先して説明しますが、頭部に集中している血液が下がってしまわないようにするためには、顎関節(下顎)を僅かに緊張させておけば充分です。

 顎関節の動きはその支点が頸椎の2番、3番辺りと言われますが、「顎を引く」という仕草はその支点が頸椎にあるため、結果として首の全周囲を緊張させる動きに繋がります。これが首に環状の緊張「バンド」をしているように血液の上下移動を抑制するのですが、血液の「下→上」の流れは交感神経の働きに支えられているため、血管に強い緊張の命令が伝わっています。つまり「下→上」の血管の働きは強固で、このバンドによって抑制されることはありません。しかし「上→下」の血管の流れは基本的に重力の働きに頼っているので(強制的に上から下に血液を送る必要がない)、バンドによって抑制されてしまいます(逆立ちのような緊急時でもなければ上→下の強制的な循環は起こり得ない)。これによって、顎部を僅かに緊張させているだけで、頭部には一定の血液を確保できることになります(同時に一定の緊張状態を維持できる)。

 この場合、顎部の緊張は「交感神経の(過剰な)働きを維持するために必須の動き」となっているので、起きている間中は、そうしたリズムを維持しようとする限り力が抜けることはありません。これは当然、顎関節に過剰な負荷をかけることになってしまうので、その持続によって顎関節の機能に異常が生じやすくなるのですが、それ以前に生じやすい問題が側頭筋の過剰な緊張による「頭痛」です。

 顎関節の動きにはさまざまな筋肉が関係していますが、その中で最も大きく、力が強いのは「側頭筋」です。顎部を常に緊張させておくといった場合、その動きを小さな筋肉に頼ったのではすぐに疲労してしまいます。しかし側頭筋は力が強い上に、頭部の主要な骨が接合する側頭部(蝶形骨と周囲一体の骨の集まり)に関与しているため、その緊張によって頭蓋の構造そのものを変化させることが可能となります。つまり、これまで「三軸の関節操作」と説明してきたことと同じことを頭蓋で引き起こすことができるので、顎部を長時間緊張させ続けるだけの仕組みを作り出すことができるのです(顎部の緊張はさまざまな筋肉のバランスによって成立しますが側頭筋がその主体になるということです)。

 この顎部を緊張させ続けるための仕組みは、当然頭部そのものにも過剰な負荷がかかります。蝶形骨に関わる頭蓋の主要な骨一帯を常に側頭筋によって締め付けていることになるので、本来は縫合という構造によって内部に溜まった圧力を外部へと逃がす仕組みが働かなくなり、圧力が高まった頭蓋内部では諸機能が著しく低下します(それを庇うためにさらなる緊張が起こる)。こうした機序を経ることで、結果として緊張型の頭痛が成立しやすくなります。頭痛にはいろんな仕組みやパターンがありますが、ここに説明したのは誰もが持っている緊張型頭痛の潜在的要因ということです。